利用報告書

183W NMRによる樹脂製造用のタングステン錯体触媒系の分析
永井大登, 押木俊之(岡山大学大学院自然科学研究科)

課題番号 :S-20-MS-1040
利用形態 :装置利用
利用課題名(日本語) :183W NMRによる樹脂製造用のタングステン錯体触媒系の分析
Program Title (English) :183W NMR Characterization of Tungsten Catalysts for Olefin Polymerization
利用者名(日本語) :永井大登, 押木俊之
Username (English) :H. Nagai, T. Oshiki2)
所属名(日本語) :岡山大学大学院自然科学研究科
Affiliation (English) :Graduate School of Natural Science and Technology, Okayama University

1.概要(Summary )
183WはI = 1/2の核でNMR測定に魅力がある核種だが、その相対感度は13Cの約6%と低く、錯体化学分野において系統的な測定は行われていない。文献を調べても、詳細な測定条件の記載はなく1)、濃度条件や緩和時間と関係する待ち時間の設定など不明のままであった。2019年度に私たちは機器センター装置利用で自らの手で183W核の測定に成功した。株式会社JEOL RESONANCEの協力により得た測定条件で、基本骨格が同じ複数の錯体のシグナルの観測に成功するとともに、プロトンとのデカップルに関する情報を得た。この結果に基づき、2020年度は錯体の分子構造と183Wの化学シフトとの相関を調べるためのさらなるデータ所得を進めた。
2.実験(Experimental)
機器センターのJNM-ECA600, 10 mm T10Lプローブを使った。サンプルチューブは Wilmad社の10mm径の513-7LPV-7を使った。サンプル量は約250mg, 約500mgの2種類を用意した。溶媒は軽溶媒(トルエンあるいはTHF)に、体積として約10%の重ベンゼンをロック用に混ぜた。
3.結果と考察(Results and Discussion)
2019年度に測定した錯体はタングステン中心に酸素系モノアニオンのキレートであるβ-ジケトナト配位子だった。β-ジケトナトに対し、類似構造をもつヒドロキシアセトフェノンを配位子原料とする図1に示すタングステン錯体(1, 2)を合成した。これら錯体は触媒機能としても興味深い性質をもつため、83Wの化学シフト値に興味が持たれるので、この錯体を測定対象に選んだ。錯体3はこれまでに測定したβ-ジケトナト配位子をもつ錯体である。
錯体2は+55ppmにシグナルが観測できた。この化学シフト値は3と比べて高磁場側に約50ppmシフトしている。一方、+689ppmにシグナルが現れた1は、2および3よ
図1. 測定したタングステン錯体の構造

りも化学シフト値が大きくは低磁場側にシフトすることがわかった。明らかに錯体の構造変化、中心タングステンの電子状態の変化を反映したものと思われ、錯体の分子計算を含めて現在、化学シフト値の差に関する研究を継続している。また別の錯体では今回の測定範囲ではシグナルが観測されなかった。この理由として、溶液中で配位子が解離するなどの構造変化を起こしていることが1H NMRスペクトルから示唆され、配位性の溶媒を用いる測定を今後進める。
2019年度の測定との大きな違いは、測定範囲を大きく変えることにより、分子構造の違いによる化学シフトの値の変化を明確に観測できた点である。さらに測定数を増やすことにより系統的な構造相関データを得る計画を立てている。
4.その他・特記事項(Others)
(1) Cross, W. B.; Parkin, I. P.; O’Neill, S. A.; Williams, P. A.; Mahon, M. F.; Molloy, K. C. Chem. Mater. 2003, 15, 2786.
基本的な測定条件を特定いただいた株式会社JEOL RESONANCE、測定前の講習や条件設定など、支援いただいた長尾春代技術支援員に感謝する。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
1) 押木俊之, 令和2年度大学等シーズ発信会(岡山県), 令和3年3月15-29日 (オンライン)
6.関連特許(Patent)
なし。

©2024 Molecule and Material Synthesis Platform All rights reserved.