課題番号 ：S-18-NI-0025
利用形態 ：共同研究
利用課題名（日本語） ：BaSnO3系ペロブスカイトのメスバウアー分光
Program Title (English) ：Mössbauer spectroscopy of BaSnO3-based perovskites
利用者名（日本語） ：林　克郎1)
Username (English) ：K. Hayashi1)
所属名（日本語） ：1) 九州大学大学院工学研究院応用化学部門
Affiliation (English) ：1) Department of Applied Chemistry, Kyushu University

１．概要（Summary ）
BaSn1xYxO3x/2 (x = 0.1, 0.3)に固相還元法を適用した結果、立方結晶ペロブスカイト構造を維持したまま、黄色～茶色に至る強い着色を発する事を見出した。中性子回折法などからHイオンの導入が示唆された。より興味深いことに、Sn2+が導入され、これがcis配置された酸素空孔対によって安定化されていることが、Mössbauer分光測定及びDFT計算による解析から明らかとなった。観測された強い着色は、このようにして安定化されたSn2+の5s電子の孤立電子対によるものと結論された。
２．実験（Experimental）
BaSn1xYxO3x/2 (x = 0.1, 0.3, 試料呼称: BSY10, BSY30)を還元剤である水素化金属と共にガラス管中に真空封入し、熱処理することで目的物を得た。XRD, 中性子回折、TG-DTA-EGA, UV-Vis拡散反射測定, XPSの手法で試料を評価した。名古屋工業大学にて、透過法による191Sn Mössbauer分光測定を78，300 Kおいて行った。また、欠陥を導入したモデルのDFT計算により実験結果の解釈を行った。
３．結果と考察（Results and Discussion）
還元処理条件が厳しくなるほど、試料の色は、元の白色から黄色、赤色、茶色と変化した。XRDでは、全ての試料において立方晶ペロブスカイト構造が維持されており、還元処理の進行と共に、格子定数の増加がみられた。TG-DTAでは、250400 Cで酸化による発熱と重量増加が確認された。He雰囲気中でのEGA測定では、昇温時にH2ガスの発生が見られ測定後には試料の色は白色に戻っていた。これらの結果は、試料中に酸素欠陥および水素化物イオンが導入されており、計測中に酸化されたと解釈される。この酸化重量増は、吸収帯の強度と相関があった。
還元前後の試料のXPS測定により、Sn4+が部分的にSn2+へと変化していることが示唆された。また、500 C 1 d還元BSY30試料における中性子回折のリートベルト解析から見積もられた組成は、BaSnIV0.50SnII0.20Y0.30O5.22H0.08であり、1021 cm3台のHの導入が示唆された。また、さらに高濃度のO2空孔の導入によりBサイトの数10%になる高濃度のSn2+が生成していると解釈された。。
Yドープおよび固相還元の有無の違いが、191Sn Mössbauerスペクトルにおいて明確に観測された。DFT計算による解析も併せ、還元によりcis配置の二つの酸素空孔と複合化したSn2+が生成していると解釈された。また、酸素空孔を導入したモデルのDFT計算から、上記の複合欠陥は、価電子帯の上のバンドギャップ中にSn2+の5s電子が孤立電子対を形成して安定化されていることが分かった。観測された吸収帯は、この状態から伝導帯への遷移によるものであると解釈される。
４．その他・特記事項（Others）
本研究は、名古屋工業大学ナノテクプラットフォーム、文部科学省元素戦略プロジェクト拠点形成型・電子材料領域、科研費新学術領域研究・複合アニオン化合物の創製と新機能(No. JP16H06439, JP16H06440, JP16H06441)の支援と助成によって実施されました。
５．論文・学会発表（Publication/Presentation）
(1) 渡部寛, 長谷川丈二, 赤松寛文, 林　克郎, 日本セラミックス協会第31回秋季シンポジウム, 2018.9.5-7.
(2) H. Watanabe, G. Hasegawa, H. Akamatsu, K. Hayashi, et al., 5th Solid-State Chemistry & Ionics Workshop, 2018.9.10-13.
６．関連特許（Patent）
なし