利用報告書

c-FLIPタンパク質の新規機能獲得に関する検証(第2期)
酒巻和弘
京都大学大学院生命科学研究科

課題番号 :S-18-MS-1063b
利用形態 :装置利用
利用課題名(日本語) :c-FLIPタンパク質の新規機能獲得に関する検証(第2期)
Program Title (English) :Structural analysis of c-FLIP proteins with ESR
利用者名(日本語) :酒巻和弘
Username (English) :Kazuhiro Sakamaki
所属名(日本語) :京都大学大学院生命科学研究科
Affiliation (English) :Graduate School of Biostudies, Kyoto University

1.概要(Summary)
 c-FLIPは、システイン-プロテアーゼであるcaspase-8と同じタンパク質構造を有しながら、プロテアーゼドメインの活性中心部位に変異が生じたために、プロテアーゼ活性を失したタンパク質であり、制御分子としてcaspase-8の活性化を抑制する働きがある。c-FLIPは、脊椎動物に進化した時にcaspase-8から派生した分子であり、顎口類へと進化する前にプロテアーゼとしての機能を失くしており、その後はcaspase-8に比べ分子進化速度が早くなっている。しかし、活性中心部位のHisとCysがArgとTyrに置換した後は脊椎動物間で両アミノ酸は不変的に保存されている。加えて、c-FLIPはcaspase-8の酵素活性を抑制するだけでなく、抗酸化分子としても働くことが報告されている。これらのことからc-FLIPは、進化の過程でプロテアーゼ活性を失した機能不全分子へと変化したのではなく、何らかの機能を新たに獲得した可能性が考えられた。
 本研究では、c-FLIPが過酸化酵素の性質を有している可能性を探るため、この酵素に特徴的な鉄結合の有無について検討した。電子スピン共鳴機を使ってc-FLIPを発現している大腸菌を調べたところ、Fe-Sの形状として鉄が取り込まれており、c-FLIPが鉄結合タンパク質に変化していることが判明した。

2.実験(Experimental)
 ヒトc-FLIP或いはヤツメウナギc-FLIPの偽プロテアーゼドメインをそれぞれ発現している大腸菌、及び空ベクターが導入されたネガティブコントロール用の大腸菌の塊を石英管に封入し、電子スピン共鳴機(Bruker E500)を使って絶対温度10Kと50Kの条件下でスペクトルを測定した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
 ヒトc-FLIPが発現している大腸菌において、2Fe-2Sクラスター型を示す特異的なスペクトルが検出された。この波形は、コントロールの大腸菌では認められなかった。一方、ヤツメウナギのc-FLIPが発現した大腸菌の場合、コントロールの大腸菌と同じく2Fe-2Sクラスター型を示すスペクトルを特定することはできなかった。
 過酸化酵素の活性部位は、ArgとTyrで構成されているが、同じアミノ酸残基の組み合わせがc-FLIPの偽プロテアーゼドメインの活性部位で保存されている。またc-FLIPが抗酸化分子であるとの報告もある。そのため作業仮説として、c-FLIPが過酸化酵素の性質を獲得した可能性を想定し、過酸化酵素の特徴の一つである鉄結合能を本研究において検証した。予想外なことに、c-FLIPにおいて鉄の含有は認められたものの、過酸化酵素とは異なった鉄の結合様式であることが判明した。また2Fe-2Sとして鉄が結合するためには、4つのCysが必要である。脊椎動物のc-FLIPの偽プロテアーゼドメイン中には進化的に保存された4つのCysが認められるが、始原型のヤツメウナギの場合には保存されていない。この動物の分子に鉄が結合しなかったことから、Cysもc-FLIPの新たな機能獲得に関与している可能性が示唆された。

4.その他・特記事項(Others)
「なし。」

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
「なし。」

6.関連特許(Patent)
「なし。」

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