利用報告書

CuをドープしたZnSナノ結晶のフォトクロミズムに関する研究
小林洋一
立命館大学生命科学部

課題番号 :S-20-NR-0038
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :CuをドープしたZnSナノ結晶のフォトクロミズムに関する研究
Program Title (English) :Photochromism of Cu-doped ZnS Nanocrystals
利用者名(日本語) :小林洋一
Username (English) :Y. Kobayashi
所属名(日本語) :立命館大学生命科学部
Affiliation (English) :Colloege of Life Sciences, Ritsumeikan University

1.概要(Summary )
申請者は、Cuをドープしたコロイド半導体ZnSナノ結晶は、固体状態で紫外光を照射すると、乳白色の粉末が灰色から黒色になり、照射を止めると数分以内にもとの乳白色へと戻る可逆的な化学反応(フォトクロミック反応)が観測されることを見出した(J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 5, 2239–2249.)。ESR測定からCu+がCu2+になる挙動が観測されており、それに伴う酸化還元反応が起源であることを明らかにした。熱戻り反応は粒子間の電子ホッピング過程が重要であることから、粒子間距離が熱戻り反応の活性化エネルギーに相関があると期待し、X線散乱測定を行った。
2.実験(Experimental)
異なるバッチのCuドープコロイドZnSナノ結晶の粉末固体を作成し(CuVIIおよびCuVIII)、奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)にて、X線構造解析測定を行った。装置は、SmartLab9kW/IP/HY/Nを用い、低角側の0.5~5°の範囲を測定し、そのピーク位置からBraggの式を用いて粒子間距離に変換した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
それぞれのX線回折(XRD)パターンをFig. 1に示す。0.1、0.2 mmのスリット幅において、CuVIIでは1.90、2.04°、CuVIIIでは2.12、2.32°に極大ピークが観測された。Braggの式を用いて粒子間距離に変換すると、CuVIIでは0.1、0.2 mmのスリット幅において4.65、4.33 nm、CuVIIIでは4.17、3.85 nmと算出された。広角側のXRDピークの線幅からScherrer式を用いて粒子直径を概算すると約3.0 nmであったことから、配位子のメルカプトプロピオン酸などの有機分子を含めた粒子間距離を反映していると考えられる。つまり、粉末状態において、ブロードながらある一定間隔で配列していることが明らかになった。フォトクロミック反応の熱消色過程の活性化エネルギーを温度依存性の解析から算出すると、CuVII、CuVIIIでそれぞれ30.9、28.5 kJ mol−1と概算された。活性化エネルギーの大きいもの(CuVII)ほど粒子間距離が長く、これは粒子間距離が長いほど電子のホッピングが起こりづらくなることに対応する。本実験により、CuドープZnSナノ結晶のフォトクロミック反応の熱戻り反応過程をより定量的に明らかにすることに成功した。
4.その他・特記事項(Others)
なし。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。
6.関連特許(Patent)
なし。

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