利用報告書
課題番号 :S-19-MS-1084
利用形態 :機器センター施設利用
利用課題名(日本語) :DNA構造を利用したフラビン-トリプトファン光誘起ラジカルペア・システムの構築
Program Title (English) :Construction of Photoinduced Radical Pair System between Flavin and Tryptophan using DNA Structure
利用者名(日本語) :岡 芳美
Username (English) :Y. Oka
所属名(日本語) :大分大学全学研究推進機構
Affiliation (English) :Research Promotion Institute, Oita University
1.概要(Summary)
生体内で、青色光受容体タンパク質クリプトクロムが高感度磁気センサーとして働いている可能性が強く示唆されている。その機構は、クリプトクロム中のフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)が青色光により励起されたとき、アミノ酸(トリプトファン、Trp)との間で電子移動が起こり、その結果生じるラジカルペアのために、微弱磁場であっても反応効率の差として検出できると推定されている。本課題では、この磁気センシング機構に着目し、DNA-ペプチド核酸(PNA)2重鎖中のフラビンとTrpを対象に、フラビンを青色光で励起したときにTrpから電子移動が起こるようモデル系を設計、構築した。フラビン-Trp・ラジカルペア形成における反応機構の評価(スピン分極の観測)、最終的な3重項ラジカルペアの寿命評価を目的とし、時間分解電子スピン共鳴(TR-ESR)測定を行った。
2.実験(Experimental)
① 水溶性のリボフラビンとグルタル酸無水物を出発原料として、比較的親水的なカルボン酸構造を持つフラビン分子を合成し、3’-末端にリンカーを介して修飾されたアミノ基とアミド結合で連結させたDNAオリゴマーを得た。 ② 報告済みの調製法(Y. Oka et al., Chem. Lett. 2017, 46, 1672–1675.)と同様に、エレクトロフォーメーション法で、巨大一枚膜構造をもつ脂質ラフトモデル膜を調製した。PNAは上記論文と同配列を用いた。 ③ 不活性ガス雰囲気下、共焦点レーザー顕微鏡を用いて、Trpによるフラビンの蛍光消光を評価した。 ④ 分子科学研究所 機器センターで、TR-ESR測定を行った。Bruker E680(X-band)とNd:YAG-OPOレーザーを用い、ナノ秒光パルス(励起波長450 nm、レーザーパワー〜2 mJ、繰り返し周波数30 Hz)照射後のTR-ESR測定を行った。4×10 mmの偏平セルを使用し、サンプル溶液の脱気処理のため、真空及びHe雰囲気下で凍結融解を繰り返した後、封管した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
共焦点レーザー顕微鏡観察により、本課題で用いたPNA-DNA2重鎖が膜の秩序液体相(脂質ラフトモデル相)に分配していること、さらに、不活性ガス雰囲気下において、PNA鎖中のTrpの存在により、相補鎖DNA中のフラビンの蛍光消光を確認できた。
TR-ESR測定では、PNA-DNA2重鎖を用いた5 ℃における10% DMSO水溶液(ここでは膜を用いていない)で、マイクロ波パワー2 mW条件下、光励起1.8 μs後に、3450 G付近の磁場領域において発光(E)/吸収(A)の分極パターンが観測できた。この結果は、反応中間体としてラジカルペアが生成しており、1重項状態を前駆体とするタンパク質と同じ反応経路を辿っていることを示唆し、目的とするタンパク質モデルの構築に成功したと考えられる。
4.その他・特記事項(Others)
<謝辞> 本研究は、科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究 )16K13980、住友財団 基礎科学研究助成、大分大学長戦略経費の助成を受けて実施した。実際のTR-ESR測定に当たって、機器センターの藤原基靖氏、上田正氏、伊木志成子氏にご協力いただいた。2018~2019年度のOPOレーザーの改良により、TR-ESRの実質的な長時間測定が可能となったため、光劣化を考慮しつつ比較的弱いシグナルの系でも積算回数を増やすことにより、有意な結果に繋がったと考えられる。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Y. Oka, 第13回分子科学討論会2019, 令和元年9月19日. (2) Y. Oka, The 20th RIES-HOKUDAI International Symposium, 令和元年12月2日. (3) Y. Oka, 日本化学会第100春季年会(2020), 令和2年3月.







