利用報告書

Fe39Co49Cr9Ni2合金における低熱膨張特性発現機構の解明
藤井 啓道, 小奈 浩太郎(新報国製鉄株式会社)

課題番号 : S-20-MS-1075
利用形態 : 施設利用
利用課題名(日本語) : Fe39Co49Cr9Ni2合金における低熱膨張特性発現機構の解明
Program Title (English) : Mechanism of low thermal expansion in Fe39Co49Cr9Ni2 alloy
利用者名(日本語) : 藤井 啓道, 小奈 浩太郎
Username (English) : H.T. Fujii, K. Ona
所属名(日本語) : 新報国製鉄株式会社
Affiliation (English) : Shinhokoku Steel Corporation

1.概要(Summary)
超大型天体望遠鏡に搭載される近赤外分光器を支える構造材料として,温度 100 K の極低温から室温の間で超低熱膨張特性を有するFe39Co49Cr10Ni2 合金を開発した.この合金の温度 100 K から室温の間における平均熱膨張係数は,約 0.13 x 10-6 K-1 であった.この値は,既存の低熱膨張合金であるインバー合金 Fe65Ni35 の 1/10 程度である.インバー合金における低熱膨張特性は,温度上昇と共に生じる Fe 原子のスピン状態遷移に起因した格子収縮により発現すると考えられている.本研究においては,Fe39Co49Cr10Ni2 合金の飽和磁化の温度依存性を明らかにし,低温における低熱膨張特性発現機構を議論した.その結果,同合金においては Fe 原子に加えて Co 原子もスピン状態遷移を起こしている可能性が見出された.本発見は,低温環境で使用可能な低熱膨張合金開発における重要な基礎知見となると考えられる.
2.実験(Experimental)
Fe39Co49Cr10Ni2 合金は,真空鋳造により作製した.SQUID 型磁化測定装置(MPMS-XL7)を用いて,温度 100 – 350 K における同合金の磁化曲線の測定を実施した.測定結果から,飽和磁化の温度依存性を明らかにし,同合金の低温における低熱膨張特性発現機構を検討した.
3.結果と考察(Results and Discussion)
 著者らの過去の研究より,Fe39Co49Cr10Ni2 合金は温度 100 – 170 K において低熱膨張特性,温度 170 – 300 K において低熱収縮特性が現れることが明らかになっている.これは,温度が 170 K 以上になると,原子のスピン状態遷移による格子収縮が加速されていることを示唆している.図1は,Fe39Co49Cr10Ni2 合金の飽和磁化の温度依存性を示している.温度 100 –

図1 Fe39Co49Cr10Ni2 合金の飽和磁化の温度依存性

170 K においては,Fe 原子のスピン状態遷移により飽和磁化が直線的に低下していることが確認できる.温度が 170 K 以上となると,温度上昇に対する飽和磁化の低下率が大きくなることが明らかになった.この結果は,温度 170 K 以上においては,Fe 原子に加えて Co 原子のスピン状態遷移も同時に生じている可能性を示唆している.そのため,温度 170 K 以上で生じる Fe39Co49Cr10Ni2 合金の低熱収縮は,Co 原子のスピン状態遷移に起因した現象であると推察される.
4.その他・特記事項(Others)
 本研究を遂行するに当たり,分子科学研究所の横山利彦教授,藤原基靖氏,伊木志成子氏に多大なるご支援,ご協力を賜りました.ここに深甚の謝意を表します.
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) H.T. Fujii, N. Sakaguchi, K. Ona, Y. Hayano, F. Uraguchi, Advances in Optical and Mechanical Technologies for Telescopes and Instrumentation IV, Vol. 11451 (2020) p.p.1145118-1-10.
6.関連特許(Patent)
なし

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