利用報告書

HECTユビキチンリガーゼによるユビキチン鎖重合の分子基盤
増田雄司
名古屋大学環境医学研究所

課題番号 :S-15-MS-0039
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :HECTユビキチンリガーゼによるユビキチン鎖重合の分子基盤
Program Title (English) :Molecular mechanism of ubiquitin chain formation by a HECT ubiquitin ligase
利用者名(日本語) :増田雄司
Username (English) :Y. Masuda
所属名(日本語) :名古屋大学環境医学研究所
Affiliation (English) :Research Institute of Environmental Medicine, Nagoya University

1.概要(Summary )
 タンパク質翻訳後修飾の一つであるユビキチン化は、細胞の様々な機能調節に重要な役割を担っている。ユビキチン転移酵素群E3は、標的タンパク質の特定のリジン残基のアミノ基とユビキチンC末端のカルボキシル基との間でイソペプチド結合を形成する。また、多くのE3は、標的タンパク質にユビキチン分子を連続的に重合する反応も触媒する。ユビキチンには8つのアミノ基があり、多くのE3は8つのアミノ基を厳密に区別し、選択的反応を行う。E3の中でも特にHECT型はリジン残基選択性を特定する分子機構に不明な点が多く、本研究ではその分子機構の解明を目指している。これまでの予備的な実験結果は、HECT型E3のC末端ドメインとユビキチンとの相互作用が、リジン残基選択性に重要であることを示唆している。具体的な相互作用部位を解明することにより、リジン残基選択性の分子機構を明らかにすることが期待できる。しかし、観察する相互作用は極めて弱いことが予想されており、高磁場NMRを用いた超高感度解析が必要である。そこでユビキチン関連分子の構造解析に実績のある加藤晃一教授のグループと協力し、この相互作用に寄与するユビキチンのアミノ酸残基を同定することを目的として研究を行った。

2.実験(Experimental)
 本研究では15N、13Cで標識したユビキチンと非標識のHECT型E3を用いて相互作用解析を行うことで、ユビキチンのHECT型E3との相互作用部位を同定する。15N、13Cで標識したユビキチンは加藤晃一教授の研究グループがこれまで発現と精製の実績があり、加藤晃一教授の研究グループで発現と精製をおこなう。HECT型E3については、申請者のグループで発現精製の実績があるE6APを用い、申請者らがE6APのC末端ドメインを発現させ精製する。E6APのC末端ドメイン、ユビキチンそれぞれにNMRによる解析結果の先行論文があり、サンプルの測定条件は先行論文に従って行う。E6APのC末端ドメインの存在下で、標識されたユビキチンの化学シフト変化の解析を行うことで、相互作用に関与するアミノ酸残基を特定する。その後、本共同研究で特定したアミノ酸残基のユビキチン鎖合成反応にける機能を証明するため、変異体ユビキチンによるユビキチン鎖合成反応を解析する。

3.結果と考察(Results and Discussion)
 15N、13Cで標識したユビキチン120 nmolと126、416、578または802 nmolのE6APのC末端ドメインを10%の重水を含む0.3 mlのリン酸緩衝液にそれぞれ混合し、ECA-920を利用してNMRスペクトルを解析した。その結果、E6APのC末端ドメインの添加量依存的に化学シフト変化が観察されるユビキチンのアミノ酸残基を特定することに成功した。次に、そのアミノ酸残基をアラニンに置換した変異体ユビキチンを作成し、E6APのユビキチンリガーゼ反応に及ぼす影響を観察したところ、E6APの酵素活性の中でも、ある素反応に特異的な欠損が観察された。これらの結果から、本実験によって同定したユビキチンとE6APとの相互作用は、E6APのユビキチンリガーゼの機能に重要な役割を果たしていることが示唆された。
4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし

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