利用報告書
課題番号(Application Number):S-16-NR-0015
利用形態(Type of Service):共同研究
利用課題名(日本語) :Lossen転位を応用したβ-アミノ酸誘導体のキラル合成
Program Title (English) :Symmetric synthesis of β-amino acid derivative utilizing Lossen rearrangement
利用者名(日本語) :白井 隆一, 榎本 光伯
Username (English) : Ryuichi Shirai, Terumichi Enomoto
所属名(日本語) :同志社女子大学
Affiliation (English) :Doshisha Women’s College of Liberal Arts
1.概要(Summary )
いわゆる必須アミノ酸はアミノ基がカルボン酸のα位に結合しているのに対し、β-アミノ酸ではβ位に結合している。それらβ-アミノ酸で構成されるものをβ-ペプチドという。β-ペプチドは一般には天然に存在しないため、β-ペプチドからなる抗菌薬は抗生物質体制を回避する方法として検討されている。一方で、β-アミノ酸の合成法は限られており、SeebachとGillmanによりArndt-Eistert合成を応用したホモペプチドの迅速合成が報告されているに過ぎない(Scheme 1)1。
そこで、我々は「キラルアルキルスクシミドのLossen転位によるβ-アミノ酸誘導体合成」を着想した(Scheme 2)。
Lossen転位はHoffman転位の変法の一つであり、N上の脱離基をTsO基に置換したものを温和な塩基性条件に曝すことで自発的にイソシアネートを形成し、水が付加することで転位が完了する2。そのような背景の下、2013年、Zhangらは独自のN,P二座型軸不斉配位子(aS)-BiphPHOXと[Ir(COD)Cl]2およびNaBARF (Na+[3,5-(CF3)2Ph]4B-)からなる触媒がアルキリデンスクシミドを高エナンチオ選択的に水素化することを報告している(Scheme 3)3。
この反応で得られるキラルアルキルスクシミドをLossen転位に応用すれば、所望のβ-アミノ酸を種々合成できると考えた。
本研究は、大きく3つのステージからなる。第一にBiphPHOXの合成、第二にN-ヒドロキシアルキリデンスクシミドの不斉水素化、第三にキラルアルキルスクシミドのLossen転位である。特に、キラルアルキルスクシミドのLossen転位において不斉炭素中心が立体保持のまま転位するかに関心が高まる。本報告では、以下、BiphPHOXの合成について述べる。
2.実験(Experimental)
下に示したScheme 4に従い、合成を行った。得られた分子について、1H NMR、13C NMR, IR測定を行い、ナノテクプラットフォームを利用して、それぞれの質量分析を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
ビスフェノール1とトリフルオロスルホン酸無水物を反応させ2を97%で合成した。これをPd触媒存在下、Ph2P(=O)Hを用いてC-Pカップリングし、3を54%で合成した。次に、COガス雰囲気下、Pd触媒により一炭素増炭してエステル4を57%で合成した。NaHにより活性化したL-バリノールと4の反応により65%で5を合成した。アルコール5とMsClを反応させると、メシル化に続く分子内環化反応が進行し、オキサゾリン6を98%で与えた(Scheme 4)。
なお、5のNMRスペクトルは室温(25℃)において複雑なピークを与えるが、温度を下げる(~ -40℃)ことでピークが収束する。これは、L-バリノールを導入したことで分子内水素結合が生じ、ビフェニルの軸の回転が抑制されることに起因すると考えている。
4.その他・特記事項(Others)
化合物3から4の変換反応に際して、反応制御科学講座の森本積准教授より、原料の合成ガスを提供していただくと同時に、多大なご助言を賜りました。この場を借りて、厚く御礼申し上げます。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。
6.関連特許(Patent)
なし。







