利用報告書

NB3SN超伝導RF空洞の最適成膜条件探索
許斐太郎1), 高橋光太郎1) (1) 高エネルギー加速器研究機構)

課題番号 :S-20-MS-1067
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :NB3SN超伝導RF空洞の最適成膜条件探索
Program Title (English) :Optimal parameter search for Nb3Sn Superconducting cavity
利用者名(日本語) :許斐太郎1), 高橋光太郎1)
Username (English) :T.Konomi1), T.Takahashi1)
所属名(日本語) :1) 高エネルギー加速器研究機構
Affiliation (English) :1) KEK: High Energy Accelerator Research Organization

1.概要(Summary )
線形加速器などの心臓部である加速空洞には高繰り返し・大電流加速が求められており、壁面抵抗の小さい超伝導RF空洞が適している。近年、アメリカ・フェルミ研究所で超伝導転移温度が18.3Kのニオブスズをニオブ空洞内に成膜した空洞の高電界化が達成された[1]。従来の純ニオブを用いた1.3GHz超伝導RF空洞の運転温度は2Kであるため、運転保守が困難であり、日本国内では超伝導RF空洞を用いた加速器は普及していない。転移温度の高いニオブスズは4~5Kでの運転が可能であり、超伝導RF空洞普及への大きな一歩が踏み出されようとしている。
2.実験(Experimental)
高エネルギー加速器研究機構(KEK)においてもフェルミ研究所と同じ蒸気拡散法を用いた超伝導RF空洞の開発を進めている。蒸気拡散法はニオブ基板へニオブスズ結晶の成長核となる基板温度500℃程度での塩化スズ蒸着と、その後に続く基板温度1100℃程度のスズ蒸着の2工程に分けられる。蒸着拡散法では成膜厚さが数マイクロメートルであり、成膜した表面が加速空洞のRF表面になる。そのため、フィールドエミッションを抑えるにはニオブスズの結晶サイズを小さく整えることが滑らかなRF表面を得るために重要である。結晶サイズは塩化スズの蒸着密度とスズ蒸着中の基板温度、蒸着時間に依存していると考えられる。本実験ではまず、低真空分析走査電子顕微鏡(低SEM)/Hitachi SU6600を用いて、ニオブスズを均一に成膜するための条件を探索した。当初はニオブスズNb3Snが十分に成長しない領域が見られたが、容器に蓋をして蒸気圧を高めることで均一なニオブスズ面を得られるようになった。図1にスズ蒸着中の基板温度を1050℃、1100℃、1150℃でそれぞれ保持した場合のSEM像を示す。基板温度が低いほど結晶サイズが小さくなることがわかる。

図1: 基板温度が(a)1050℃、(b)1100℃、(c)1150℃で成膜したNb3SnのSEM像。

また、ニオブスズの転移温度をSQUID型磁化測定装置Quantum Design MPMS-7を用いて測定した。基板温度を1050℃、1100℃、1150℃の場合、ゼロ磁場での上部臨界磁場はそれぞれ17.8±0.1 K、17.6±0.1 K、17.5±0.1 であり、大きな差はなかった。
3.結果と考察(Results and Discussion)
本実験により、十分にスズ蒸気を供給していれば、基板温度がニオブスズの超伝導特性に影響しないことがわかった。このことから、基板を低温で保持すれば結晶サイズを小さく保てるため、今後は塩化スズ密度の調節を進めることを考えている。
4.その他・特記事項(Others)
参考文献[1]: S.Posen et. al.,APL.106,082601(2015)
謝辞:本研究は、文部科学省委託事業ナノテクノロジープラットフォーム課題として分子科学研究所ナノプラットフォームの支援を受けて実施されました。機器センター(ナノプラット)の石山修氏、藤原基靖氏、伊木志成子氏に実際のSEM/EDX,SQUID型磁化測定装置の測定をはじめ、多くのご助力、ご助言をいただいたことに深く感謝いたします。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) T.Takahashi et. al., 日本物理学会 第76回年次大会, 令和3年3月14日
(2) T.Takahashi et al., TTC 2021, 21 Jan. 2021
6.関連特許(Patent)
なし。

©2024 Molecule and Material Synthesis Platform All rights reserved.