利用報告書
課題番号 :S-18-MS-1082
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :SCOと連動した光誘起プロトン移動を示す鉄二価錯体のアニオン置換効果
Program Title (English) :Anion effect in proton transfer coupled with photoinduced spin transition
利用者名(日本語) :中西 匠
Username (English) :Takumi Nakanishi
所属名(日本語) :国立大学法人九州大学 先導物質化学研究所
Affiliation (English) :1 Institution for Materials Chemistry and Engineering, The University of Kyushu
1.概要(Summary )
熱、光、圧力など種々の外部刺激による構造、物性の変化を示す動的材料は、記憶材料やセンサーなど幅広い分野での応用が期待されている。申請者は近年、温度変化に伴うスピン転移と連動して分子内プロトン移動を発現する鉄二価錯体の開発、さらに光誘起スピン転移の発現を利用したプロトン移動の光駆動を、光励起状態の単結晶構造解析により実証した。本申請では、新たに開発したプロトン結合スピン転移錯体[1F](CF3SO3)が示す、一つの錯体で二つのプロトンが同時に移動する挙動の、光制御について検討を行った。
2.実験(Experimental)
単結晶X線回折装置 微小結晶Rigaku HyPix-AFCに単結晶をセットし、135 Kで1.5時間、温度を維持した後、123 Kで単結晶構造測定を行った。十分に質の高い構造データが得られたと判断された結晶を用いて、光励起状態前の構造決定を40 Kで行った。測定後、結晶に対し532 nm緑色レーザーを1時間照射し、レーザーの電源を切った後、40 Kで構造決定を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
135 Kで1.5時間、結晶を静置した後、123 Kで単結晶構造解析を行った。[1F](CF3SO3)の磁性測定の結果から、123 Kでは低スピン状態であることが分かっている。実際に得られた結晶構造では、結晶学的に独立な二種類の錯体が確認され、それぞれのFe2+周りの結合長は低スピン状態に特徴的な値(Fe—N = 1.845~1.863 Å)となっていた。二つの錯体はいずれも配位子中のヒドラゾン部位、ピリジン環の窒素原子との間で分子内水素結合を形成していた。ヒドラゾン部位、ピリジン環の窒素原子を中心とする結合角から、水素絵結合中のプロトン位置を決定した。二つの錯体の内の一方では、二つの配位子の内の片方のみ、プロトンがヒドラゾン部位からピリジン環に移動しているのに対し、もう一方の錯体では、両方の配位子において、プロトンがヒドラゾン部位からピリジン環に移動していることが分かった(図1)。この結晶を用いて、光照射前の40 Kでの構造決定を行ったところ、123 Kと同様の構造が得られた。続いて、結晶に対し532 nm 緑色レーザーを1時間照射し、レーザーの電源を切り、構造決定を行った。得られた結晶構造では、結晶学的に独立した1種類の錯体が確認された。Fe2+周りの結合長を調べた結果、Fe—N = 2.094、2.107 Åと、高スピン状態に特徴的な値に変化していたことから、光誘起スピン転移の発現が確認できた。さらに、水素結合中のプロトン位置を結合角から決定した結果、両配位子共に、プロトンはヒドラゾン部位側に存在していることが分かった(図1)。以上の結果から、[1F](CF3SO3)における二つのプロトンがスピン転移と連動して同時に移動する現象は、光によっても制御可能である事が明らかとなった。
図1:光誘起プロトン移動に伴う結合角の変化
4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし