利用報告書

STXMを用いた反応場の直接分析からひも解く微生物による海洋地殻内 エネルギー獲得戦略
光延 聖1), 大橋 優莉2)
1) 愛媛大学大学院農学研究科, 2) 静岡県立大学大学院薬食生命科学総合学府

課題番号 :S-16-MS-2002
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :STXMを用いた反応場の直接分析からひも解く微生物による海洋地殻内
エネルギー獲得戦略
Program Title (English) :Study on the mechanism of microbial alteration of ocean crust by using STXM
利用者名(日本語) :光延 聖1), 大橋 優莉2)
Username (English) :S. Mitsunobu1), Y. Ohashi2)
所属名(日本語) :1) 愛媛大学大学院農学研究科, 2) 静岡県立大学大学院薬食生命科学総合学府
Affiliation (English) :1) Ehime University, 2) University of Shizuoka

1.概要(Summary )
最近の研究によって、これまで生命活動が存在しないと考えられていた地下や海底下に、多種多様な微生物(主にバクテリア, アーキア)が生息することがわかってきた。特に、地球表面積の70%を占める海底下の岩石圏に巨大な微生物圏が広がっていることが報告され、地球生命科学にパラダイムシフトが起きている。海底下微生物圏を支えるエネルギー獲得反応の1つに、海洋地殻(玄武岩)に含まれる還元体鉄(2価鉄)の酸化反応がある。珪酸塩鉱物を主体とする玄武岩は、水溶解性が低く生物利用性も低いため、微生物は玄武岩中の2価鉄を効率よく利用するための多様な戦略を有すると考えられている。
しかし、直接分析の困難さなどから、微生物による玄武岩中鉄酸化機構には未解明な点が多い。そこで本研究では、軟X線領域の走査型透過X線顕微鏡(STXM)を使用し、玄武岩に付着した微生物細胞周辺の有機物種と鉄化学種を同時に分析、かつnmスケールの空間分解能での1細胞分析を実現することで、微生物による玄武岩中の鉄酸化戦略、つまり海底微生物のエネルギー獲得戦略を分子レベルで解明することを試みた。
2.実験(Experimental)
本実験に用いる試料には、海洋地殻中で鉄を含む主要鉱物であるパイライトを用いて深海底で微生物現場培養を実施、回収した試料を用いた。そのため、過去の風化履歴の影響を受けずに海洋地殻の岩石(鉱物)中鉄酸化と微生物活動の関係性を直接的に議論できるという研究手法上の利点も有する。
STXMによる分析は、分子科学研究所 UVSOR BL4Uにておこなった。玄武岩に付着した微生物の細胞周辺での鉄NEXAFS分析に基づく鉄の化学状態解析(価数, 有機体or無機体, 酸化鉄種類)、炭素NEXAFS分析に基づく有機物種解析(多糖類など細胞外有機物種の同定)で実施した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
STXMによるC 1s NEXAFSを用いて、微生物-パイライト付着面の炭素の化学種分析をナノスケールで行った結果、微生物が金属錯生成能を有する細胞外有機物を鉱物表面で産生し基質の溶解を促進していること、また、Fe 4p NEXAFSにより、細胞周辺の鉄粒子を分析した結果、50-100 nm程度の粒径を有するクラスター状の水酸化鉄鉱物を細胞外へ排出していることが明らかとなった。分析の結果、この鉱物種は、水酸化鉄鉱物であるフェリハイドライト、シュベルトマナイトが主要鉱物として観察され、基質表面は、周辺海水に比べ低pH環境であることが示唆される。一般的に、低いpH環境では無機的な鉄酸化反応速度が小さいことが知られており、微生物由来の鉄酸化反応が卓越しやすい環境が形成されていることが示唆される。したがって、パイライトの風化機構には微生物由来の鉄酸化反応が大きく寄与していると推測される。
4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 大橋 優莉, 光延 聖, 坂田 昌弘, 鈴木 優美, 牧田 寛子, 野崎 達生, 川口 慎介, 深海底での微生物現場培養実験から紐解く鉄を基盤とした海底下微生物圏-放射光源X線分析法を駆使した微生物による地殻内エネルギー獲得戦略の解明-,日本微生物生態学会年会, 横須賀市文化会館(横須賀市), 2016年10月24日
6.関連特許(Patent)
該当なし

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