利用報告書
課題番号 :S-17-MS-2003
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :STXMを用いた微生物-鉱物界面の直接分析に基づく微生物による海洋地殻風化機構の解明
Program Title (English) :Study on the mechanism of microbial alteration of ocean crust by using STXM
利用者名(日本語) :光延 聖1)
Username (English) :S. Mitsunobu1)
所属名(日本語) :1) 愛媛大学大学院農学研究科
Affiliation (English) :1) Ehime University
1.概要(Summary )
最近の研究によって、これまで生命活動が存在しないと考えられていた地下や海底下に、多種多様な微生物(主にバクテリア, アーキア)が生息することがわかってきた。特に、地球表面積の70%を占める海底下の岩石圏に巨大な微生物圏が広がっていることが報告され、地球生命科学にパラダイムシフトが起きている。海底下微生物圏を支えるエネルギー獲得反応の1つに、海洋地殻(玄武岩)に含まれる還元体鉄(2価鉄)の酸化反応がある。珪酸塩鉱物を主体とする玄武岩は、水溶解性が低く生物利用性も低いため、微生物は玄武岩中の2価鉄を効率よく利用するための多様な戦略を有すると考えられている。
しかし、直接分析の困難さなどから、微生物による玄武岩中鉄酸化機構には未解明な点が多い。そこで本研究では、軟X線領域の走査型透過X線顕微鏡(STXM)を使用し、玄武岩に付着した微生物細胞周辺の有機物種と鉄化学種を同時に分析、かつnmスケールの空間分解能での1細胞分析を実現することで、微生物による玄武岩中の鉄酸化戦略、つまり海底微生物のエネルギー獲得戦略を分子レベルで解明することを試みた。
2.実験(Experimental)
本実験に用いる試料には、海洋地殻の主要岩石である玄武岩を深海底にて放置し、微生物の現場培養をおこなった試料を用いた。そのため、通常掘削試料等で問題となる過去の風化履歴の影響を受けずに海洋地殻の岩石(鉱物)中鉄酸化と微生物活動の関係性を直接的に議論できるという研究手法上の利点も有する。玄武岩の現場培養実験には、溶解度を上昇させる目的で粉末にした試料を用いている(粒径50-100 μm)。
STXMによる分析は、分子科学研究所 UVSOR BL4Uにておこなった。玄武岩に付着した微生物の細胞周辺での鉄NEXAFS分析に基づく鉄の化学状態解析(価数, 有機体or無機体, 酸化鉄種類)、炭素NEXAFS分析に基づく有機物種解析(多糖類など細胞外有機物種の同定)で実施した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
STXMによるC 1s NEXAFSを用いて、微生物-玄武岩付着面の炭素の化学種分析をナノスケールで行った結果、微生物が金属錯生成能を有する細胞外有機物(酸性多糖類)を鉱物表面で産生し玄武岩(基質)の溶解を促進していることが明らかになった。これは溶解度が低い玄武岩に含まれるFe(II)を効率よく利用するための微生物の戦略の1つと考えられる。また、Fe 2p NEXAFSにより、細胞周辺の鉄粒子を分析した結果、50-100 nm程度の粒径を有するクラスター状の水酸化鉄鉱物を細胞外へ排出していることが明らかとなった。分析の結果、この鉱物種は、水酸化鉄鉱物であるフェリハイドライト、が主要鉱物として観察され、基質表面は、周辺海水と同様に中性pH環境であることが示唆される。
4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 光延 聖, 放射光源X線顕微鏡をもちいた環境中の微生物-元素-鉱物相互作用の直接観察, 光延 聖, 2017年度日本バイオイメージング学会, 東京薬科大学(八王子市), 2017年9月16日
6.関連特許(Patent)
該当なし