利用報告書

XPSによるPt薄膜の不純物検知
湯浅裕美1)
1) 九州大学大学院システム情報科学研究院

課題番号 :S-19-KU-0028
利用形態 :機器使用
利用課題名(日本語) :XPSによるPt薄膜の不純物検知
Program Title (English) :Detection of impurities in Pt films by XPS
利用者名(日本語) : 湯浅裕美1)
Username (English) : H. Yuasa1)
所属名(日本語) :1) 九州大学大学院システム情報科学研究院
Affiliation (English) :1) Kyushu Univ. ISSE.

1.概要(Summary )
中間層を介した2層の強磁性層間にはたらく特異な90度磁気結合の挙動を調べている。90度磁気結合とは、2層のもつ磁化が互いに±90度に結合する現象である。中間層に磁性酸化物を用いると強い90度磁気結合が発現することが知られており、我々はFe-Oにより90度磁気結合を実現した。具体的には、Fe3O4ターゲットを用いて2nm程度のFe-O膜をスパッタし、真空チャンバー内へ酸素を導入して後酸化処理を行う。しかし、作成条件を少し変化するだけで90度磁気結合が弱くなり、ひいては発現しなくなる。90度磁気結合を安定して利用するためには、強度を決める因子を特定することが重要である。我々はFeの酸化度合いに着目した。90度磁気結合を顕わに示すFe-O膜と、示さないFe-O膜の酸化状態を比較し、90度磁気結合発現メカニズムにおける酸化進行度の影響を調べた。その結果、酸化不足の場合にはFeが多く残り、これを介した強磁性結合が勝ってしまい、90度磁気結合が発現しないことがわかった。また、酸化が強すぎると酸化膜Fe-Oの平坦性が失われ、凹凸に起因したオレンジピール結合という強磁性結合が発現し、このため90度磁気結合が得られないことがわかった。安定した90度磁気結合を得るためには、最適な酸化条件を適用することが重要となる。

2.実験(Experimental)
島津製作所製 AXIS-ULTRAを用いて、Fe-O膜の酸化程度を調べた。作成した試料の基本膜構成は、以下の通りである。SiO2基板/Ta 5nm/NiFeCr 5nm/CoFe 1nm/IrMn 5nm/CoFe 2nm/Fe3O4 2nm/後酸化プロセス/Cu 1nm/Al 2nm。Fe-Oの上にはCuとAlの保護層によって、大気からの酸化防止した。90度磁気結合を磁化測定で確認する試料はSiO2基板/Ta 5nm/NiFeCr 5nm/CoFe 1nm/IrMn 5nm/CoFe 2nm/Fe3O4 2nm/後酸化プロセス/CoFe2nm/Cu/Taである。後酸化プロセスは3種類とし、(1)酸化なし、(2) 酸素暴露量500kL、(3)大気暴露とした。(2)が最適酸素暴露量であり、(1)は酸化不足、(3)は酸化過剰の条件である。Fe3O4の下のCoFe 2nmの磁化を一方向に固着するため、4kOeの磁場中で270度1時間のアニールをした。

3.結果と考察(Results and Discussion)
 Fig. 1に各試料の磁化曲線、Fig. 2にXPSプロファイルを示す。黒線が酸素暴露なし、赤線が500kL酸素縛尾r、青線が大気暴露である。磁化曲線では酸素暴露量500kLの試料で明確な2段階ループが得られ、強い90度磁気結合が観測された。その他の試料では明確な90度磁気結合が見られない。次にXPSの結果を見ると、大気暴露した試料で明らかに金属Feのピークが弱くなり、Fe酸化物のピークが増加した。Fe-Oの下にあるCoFe層も酸化している可能性もある。一般的に酸化強度が強い場合、Fe-O膜が凹凸を持つことが断面TEM像から分かっている。凹凸が生じるとこれを介した2層のCoFe層には強磁性的な結合がはたらき、90度結合が見えなくなる。一方、酸素暴露をしなかったFe-Oは、適正条件よりも少しだけFe酸化物ピークが小さい。この程度の差ではあるが、金属FeがFe-O内に残っていると、それを介して強磁性結合する。このため、この試料でも90度磁気結合が発現しないといえる。

4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし

©2026 Molecule and Material Synthesis Platform All rights reserved.