利用報告書

機能性材料開発
新納厚志1)
1) シャープ株式会社

課題番号(Application Number): S-17-NR-0029
利用形態(Type of Service):技術代行
利用課題名(日本語) :機能性材料開発
Program Title (English) :Development of functional materials
利用者名(日本語) :新納厚志1)
Username (English) :A.Niinoh1)
所属名(日本語) :1) シャープ株式会社
Affiliation (English) :1) Sharp corporation
検索キーワード :分野(材料)、材料(有機・高分子)

1.概要(Summary )
ナノメートルサイズの凹凸構造(ナノ構造)を有する光学フィルムは、優れた反射防止性を有することが知られている。しかし凹凸構造の表面に指紋(皮脂)等の汚れが付着した時汚れを拭き取ることが困難である場合が多かった。
これまでの研究で凹凸構造を有し、かつ汚れを容易に拭き取ることのできる防汚性フィルムの実現には、最表面のフッ素原子比率を所定量以上とすることが最低限必要であることが分かっていた。しかし最表面のフッ素原子比率が十分高くても指紋拭き取り性が悪い場合があったため、さらなる改善が求められていた。そこで種々のフィルムの深さ方向の元素分析をX線光電子分光分析(XPS)にて実施したところ、凹凸構造を有し、かつ汚れを容易に拭き取れる防汚性フィルムを実現するためには、凹凸構造の表面にフッ素原子が濃化した領域が存在し、かつ、その下側に窒素原子が濃化した領域が存在する構成とする必要があることが分かった。
2.実験(Experimental)
 防汚性フィルムはTACを基材とし、基材上にナノメートルサイズの凹凸構造を有する重合体層を備えた構造とした。重合体層に用いる樹脂を種々に変化させてサンプルを作成し、防汚性の評価ならびに元素分析を実施した。元素分析として有機材料から構成されるフィルムの元素分析を正確に実施するため、X線光電子分光分析(XPS)を奈良先端科学技術大学院大学にて実施した。装置はULVAC-PHI社製のPHI5000 VersaProbeⅡを用いた。また深さ方向の元素分析を正確に実施するため、スパッタリングによる損傷を最小限に抑えることのできるガスクラスターイオンビーム(GCIB)を用いてスパッタリングを行った後に元素分析を実施した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
4種の樹脂をそれぞれ用いて防汚性フィルムを作成し、防汚性の評価ならびに元素分析を実施した。樹脂材料としてA6、A8を用いると防汚性、特に指紋拭き取り性が高かった。一方樹脂にA9やA10を用いると撥水性は高かったが、指紋拭き取り性が低かった。そこでそれぞれのフィルムについて深さ方向の元素分析をXPSにて実施したところ、指紋拭き取り性が高かったサンプルは全て最表面のフッ素原子比率が十分に高かっただけでなく、表面から深さ方向に5~90nm離れた領域に窒素原子比率の極大値を有していた。指紋拭き取り性が低かったサンプルにも最表面のフッ素原子比率が高かったサンプルが存在した(樹脂にA10を用いたサンプル)が、このサンプルには表面から深さ方向に5~90nm離れた領域に窒素原子比率の極大値を有していないことが分かった。以上より、防汚性が十分に高い防汚性フィルムを実現するためには、最表面のフッ素原子の比率を十分に高めるだけでなく、表面から深さ方向に5~90nm離れた領域に窒素原子比率の極大値を持つ構造とする必要があることが分かった。
表 XPS分析結果

4.その他・特記事項(Others)
XPS測定に際し、丁寧に御指導いただきました奈良先端科学技術大学院大学技術職員、岡島康雄様に感謝申し上げます。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし(特許出願済み)

©2025 Molecule and Material Synthesis Platform All rights reserved.