利用報告書

高周波ESRによる高純度有機化合物のg値測定
松本信洋1)
1)産業技術総合研究所

課題番号 :S-14-MS-1047
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :高周波ESRによる高純度有機化合物のg値測定
Program Title (English) :g-factor measurements of high-purity organic compounds with using high-frequency
electron spin resonance
利用者名(日本語) :松本信洋1)
Username (English) :N. Matsumoto1)
所属名(日本語) :1) 産業技術総合研究所
Affiliation (English) :1) National Institute of Advanced Industrial Science and Technology

1.概要(Summary )
分析化学分野において,アボガトロ定数以上の原子・分子が集合した試料の純度または濃度を物理量の測定値と物理定数等から直接得る事ができる分析方法(一次標準直接法)は,重量分析法、電量分析法、凝固点降下法の三種類のみである。それに対して,本研究では不対電子がもつ有効磁気モーメントの性質を利用した新規定量分析法“有効磁気モーメント法“を開発している(参考文献1)。安定フリーラジカルをもつ高純度有機化合物粉末のフリーラジカルとしての純度をキュリー・ワイスの法則と磁気モーメントの加算則に基づいて正確に定量するためには,電子スピン共鳴(ESR)測定によりg値を求めて,キュリー・ワイスの法則に含まれている自由電子のg値と置き換える事が必要である(参考文献2). ESR測定では通常Xバンドのマイクロ波周波数が用いられているが,有機フリーラジカルの場合,ESR測定において最も利用されているマイクロ波周波数はXバンド(9.5GHz)である。XバンドESR装置で,2,2,6,6-tetramethylpiperidine 1-oxyl (TEMPO), 1-oxyl-2,2,6,6-tetramethyl-4-hydroxypiperidine (TEMPOL), 4-hydroxy-2,2,6, 6-tetramethylpiperidine 1-oxyl benzoate (安息香酸4-ヒドロキシ-TEMPO)の3種類の市販高純度粉末試料のESRスペクトルを室温から液体窒素温度まで測定した場合,いずれの試料においても1本の大きな微分ピークが検出される。それらのスペクトルの共鳴磁場から各試料の有効g値geffを求めた場合,それぞれ(2.0072±0.0002), (2.0069±0.0002), (2.0071±0.0004)の値を得ている。純度を求める目的でこれらのg値を使用する場合,温度に依存しないとみなす事ができる。
本共同利用申請では,Qバンド(34 GHz)ESR装置の利用申請により,液体窒素温度以下でのg値の温度変化確認およびg値のマイクロ波周波数依存性の有無確認の他,XバンドESR測定では困難であるg値の異方性を確認した。
2.実験(Experimental)
装置:電子スピン共鳴装置(Burker, E500)[Qバンド]
測定温度範囲: 約20 K~室温
試料準備方法:アグリ社製合成石英管Φ2 mm×100 mmに約0.1 mgの試料粉末を封入した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
3種類の高純度粉末のESRスペクトルの温度変化を各2回づつ測定した。いずれの試料においても,複数の微分ピークが検出され,Xバンドよりも高分解能なスペクトルを得た。また3種類のうち,安息香酸4-ヒドロキシ-TEMPOのみ再現性のあるスペクトルを得た。各測定温度における安息香酸4-ヒドロキシ-TEMPOのスペクトルの形状は約30K未満と30K以上で大きな差異が見られた。全ての温度範囲において,g値の異方性が確認された。無配向試料であるとしてg値をg=(g1+g2+g3)の式から求めると,30~170 Kの温度範囲で(2.00675±0.00089)[暫定値]となり,Xバンドの場合のg値と一致した。また,今回液体窒素温度~30 Kまでのg値を確認できた事によって,4-Hydroxy-TEMPO分粉末の純度分析値の不確かさが5%から約1.4%まで小さくする事が可能となった。
4.その他・特記事項(Others)
・(参考文献1) N. Matsumoto, T. Shimosaka, Accred. Qual. Assur., 20, 115-124 (2015)
・(参考文献2) N. Matsumoto, T. Shimosaka. J. Applied Physics 117, 17E114 (2015)
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし

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