利用者インタビュー

植物由来の材料開発に着目

―竹井教授は民間企業から教員に転職されていますね。

そうです。京都工芸繊維大学大学院博士前期課程を修了した後、機能性材料、ライフサイエンス、化学品の事業を展開する化学メーカーに就職しました。会社員時代は電子材料の反射防止膜の研究開発に携わり、12年の間で、国外ではアメリカとベルギー、国内では富山県と千葉県に勤務しました。中でも、富山県の人たちは仕事に対する姿勢が特に真剣だったのが印象的でした。富山県立大学を選んだのは、熱意のある人たちが多い富山県が飛躍し、付加価値の高い競争力のある製品を、この地から送り出したいと思ったからです。

―富山県立大学では、どういったことに取り組もうと思いましたか。

富山県立大学には2010(平成22)年に着任し、これまでの知識や経験が生かせる電子材料や機能性材料をテーマにしようと考えていました。ただ、同じターゲットや研究分野で勝負しようと思うと、予算もマンパワーも民間企業にはかないません。そこで、植物由来の材料を開発し、植物の特性を電子材料や機能性材料に生かして、民間企業との差別化を図ろうと考えたのです。

―植物のどういった特性に着目したのですか。

植物を構成する成分には、グルコースやトレハロースなどがあります。これらの素材の特性は水溶性が高いことです。そして、植物でさまざまな材料を作れば、環境に優しいことは誰にでも分かってもらえると思います。

微細加工を水溶性材料で実現

―なるほど。その発想から生まれたのが水溶性レジスト材料なのですね。

半導体や太陽電池、LEDを製造する微細加工プロセスにおいて、これまでのレジスト材料はアクリル樹脂やエステル樹脂などの石油由来の原料が主成分で、現像液には有毒な有機溶剤がたくさん使われていました。そこで、サブマイクロメートルの微細加工用に植物由来の水溶性レジスト材料を開発し、水で現像できるようにすることで、環境負荷を軽減することに成功しました。水溶性レジスト材料には、含水率が増加したり、材料の膨張によるパターン寸法の異常が発生したりすることがありました。この欠点を解消するため、糖鎖誘導体やセルロース化合物などの植物性原料を使用して強度を高め、微細加工できる適切な分子量と水酸基の濃度を導き出しました。

―開発する上で困難に直面したことはありますか。

化合物が水に溶けやすいかどうかを決めるのは水酸基の濃度です。濃度が高ければ高いほど水に溶けやすくなりますが、パターン形成に悪影響を及ぼしたり、材料の膨張につながったりします。ですので、最適な濃度を見出すのに多くの時間を割きました。この水酸基の最適化を図る上で、ナノテクノロジープラットフォームを利用しました。大阪大学の北島先生、大島明博先生、柏倉美紀先生、古澤孝弘先生、田川精一先生のご協力の下、電子線描画装置で評価していただきました。また、4人の先生方から民間企業とは違った学術的なアプローチの仕方を学ばせていただいたと思います。この水溶性レジスト材料は来年から実用化を目指しています。

空気を通す金型で高性能なセンサーも

―この研究から派生したプロジェクトがあるそうですね。

現在、「ナノインプリント加工用の金型」の研究を進めています。ナノインプリントは、透明な金型に液状の光硬化樹脂を流し込み、金型の上から光を照射して樹脂を固めて回路や模様などを転写する微細加工技術です。従来の石英や金属などの金型では空気を通さないため、金型と転写剤の間に隙間が生じることで、成形不良や金型損傷が起こることが問題となっていました。さらに転写材の流動に時間がかかり、生産性の改善が要求されていました。そこで、植物由来のセルロースナノファイバーを用いることで空気を通す“多孔質”の金型を開発しました。この研究は、キャノン財団の研究助成プログラム「産業基盤の創生」に採択されています。

―この研究が実用化されると、日常生活がどのように変わるのでしょうか。

金型の自由度が高まるため、成形できる製品の幅が広がります。どういった製品ができるかというと、例えば、医療分野では細胞の培養を速める三次元培地の製作が可能になります。この培地の培養速度が上がれば、早期診断に使用できるだけでなく、匂いや花粉、インフルエンザを検知するバイオセンサーをスマートフォンに取り付けることもできます。また、高性能な貼り薬や医療用テープなどの開発にも活用できます。

―今後はどのように展開していくのでしょうか。

金型に開いている穴は強度に影響しますし、圧縮して空気を通すので耐久性を高める必要があります。また、転写剤をきれいにはがすために金型の表面を加工しなければならないかもしれません。事業化にはまだいくつかの重要課題を解決する必要があります。幸いにも地域や関心ある企業様との連携体制が構築できており、近いうちに解決できると思っています。この研究は、容器、包装といった医薬品関連産業への応用が期待されており、「くすりの富山」をアピールする一助になればと願っています。

この研究に関するお問い合わせ:富山県立大学

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