利用者インタビュー

高度情報化社会で次世代磁気メモリが必要

―このような研究に取り組んだのはどうしてなのですか。

スマートフォンが普及するなど高度情報化社会が到来した現代では、磁気メモリ(ハードディスクドライブ)に記録された大量のデータによって、社会基盤が支えられていると言っても過言ではありません。ただ、磁気メモリの書き込みには、コイルに電流を流して磁場を発生させて磁化の向きを反転させることが必要であり、大きな電力を消費することが問題でした。

―なるほど。今後、電力を使う電子機器が増えていくことを考えると、消費電力の問題は無視できないです。

その通りです。電気を蓄えるコンデンサ(強誘電性)と磁石(強磁性)の性質を併せ持つ物質は「マルチフェロイック物質」と呼ばれており、次世代のメモリやセンサの材料として注目されています。この物質を用い、電圧によって磁化方向を反転できれば、不揮発性・高安定性という現在の磁気メモリの特徴を生かしながら、消費電力をほとんど必要としない次世代磁気メモリが実現できます。

コバルトで自発磁化を生み出すことに成功

―マルチフェロイック物質は大きな可能性を秘めていますね。

ただ、将来の省電力メモリーデバイスの候補として盛んに研究されてきたマルチフェロイック物質には課題がありました。それは、マイナス200度以下の環境でしか電圧による磁化の反転を実現できず、これまでは実用化することが困難だったからです。

―その欠点をどのように改善しようと考えたのでしょうか。

マルチフェイクス物質の中で、室温で特性を示すのが「ビスマスフェライト(BiFeO3)」でした。ビスマスフェライトを構成するのは、ビスマスと鉄と酸素です。この中で磁性を持つのは鉄だけになります。鉄にはスピン(イオンが持つ小さな磁石)があって磁性を持ちますが、隣り合うスピンは反対方向を向いていて、磁性を打ち消しあう「反強磁性」です。反強磁性であっても、隣り合うスピンが傾けば自発磁性が生まれるのですが、ビスマスフェライトではスピンの傾きが62nmの周期で一周してしまう、サイクロイド型と呼ばれる変調構造があるため、自発磁化がゼロとなるのです。そこで、鉄を10%程度コバルトに置換したところ、サイクロイド変調が消え、スピン同士が交互に少し傾く傾角構造を取るようになり、「弱強磁性」に変わったことで自発磁化を生み出すことに成功しました。

―コバルトを結晶構造に組み込むことで、ビスマスフェライトに自発磁化を持たせることができたわけですね。

この結果をもとに、温度に応じて磁石としての性質が変化し、低温ではサイクロイド変調が出現して強磁性が消失することや、強誘電性も備えていることを明らかにしました。さらに、強磁性と強誘電性の相関関係も確認されました。磁化の方向が電気分極と直交することを利用して、電気分極を反転させることで、磁化を反転させることが可能となり、特許を申請しました。論文も投稿中です。

利用できる施設が限られた機器を利用

―この研究を進める上で分子・物質合成プラットフォームの設備・機器を利用されたそうですがいかがでしたか。

今回、ビスマスフェライトのスピンがどのように並んでいるのかを調べるために、名古屋工業大学のメスバウアー分光装置を使わせてもらいました。放射性同位元素を使用する機器であるために届け出が必要で、利用できる施設が限られています。このように外部に開かれた形で使えるのはありがたいですね。窓口の壬生攻教授は、学生時代の先輩だったので気軽にお願いできましたし、解析の結果について相談に乗ってもらいました。また、当大学の学生に機器の使い方やデータの解析も教えてもらいました。

温めると縮む材料の開発に取り組む

―ほかにどんな研究を進めているのですか。

近年、半導体やLSIの製造では、ナノレベルの精度が要求されます。そういった現場で問題となるのが「熱膨張」です。ナノテクノロジーの世界では、膨張による部品のわずかなずれも許されません。そこで、通常の温めると膨張する材料と混合することで熱膨張を抑えることのできる、温めると縮む材料を作ろうとしています。現在、縮む材料として「ビスマス・ランタノイド・ニッケル酸化物」「ビスマス・ニッケル・鉄酸化物」などを見つけています。

―今後の展望があれば教えてください。

実は、京都大学に入学した当初は、天文学に取り組みたいと考えていたのです。ところが、2年生の時に高温超電導の研究が大いに盛り上がりました。原子の並び方を設計することによってさまざまな物質を生み出すという研究の面白さに惹かれて、この材料工学の世界に足を踏み入れました。天文学は個人でできる貢献に限界がありますが、材料工学は自分のアイデアで世の中を変えることができるという魅力があります。これからも実社会に即した研究に取り組んでいきたいと思います。

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