利用報告書
課題番号 :S-20-KU-0032
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :コラーゲン様ペプチドのらせん構造形成
Program Title (English) :Helix formation of collagen-like peptide
利用者名(日本語) :槇 靖幸1), 黒岩 勇2)
Username (English) :Y. Maki1), I. Kuroiwa2)
所属名(日本語) :1) 九州大学大学院理学研究院, 2) 九州大学大学院理学府
Affiliation (English) :1) Faculty of Science, Kyushu University, 2) Graduate School of Science, Kyushu University
1.概要(Summary )
コラーゲンは動物の組織中に豊富に存在するタンパク質であり,天然状態では三重らせん構造を形成する。コラーゲンのらせん形成領域には, 3残基ごとにグリシンが現れる特徴的なアミノ酸の繰り返し配列(Gly-Xaa-Yaa)が存在する。(Pro-Pro-Gly)nや(Pro-Hyp-Gly)nのような同様の特徴をもつペプチドは,コラーゲンモデルペプチドと呼ばれ,条件によってはコラーゲンと同様な三重らせん構造を形成することが報告されている。
我々は以前に,コラーゲンの変性タンパク質であるゼラチンのゲル化に及ぼす糖類添加の影響について調べ,スクロースの添加はゲル化温度を上昇させるが,スクラロースの添加はゲル化温度を下降させることを見出した。ゼラチンのゲル化においては,ゼラチン分子がコラーゲンの天然状態における秩序構造を再生することで架橋構造を形成すると考えられているため,ゲル化温度の変化はコラーゲン構造の転移温度の変化によって説明できると考えられる。
本研究では,ゼラチンのゲル化温度に対する糖類添加の効果のメカニズムを明らかにするため,コラーゲンモデルペプチド溶液を用いて,糖類添加による構造変化への影響を検討した。
2.実験(Experimental)
日本分光 円二色性分散系 J-1500を用いて,5℃から40℃の範囲の異なる温度において,コラーゲンモデルペプチド溶液の円二色性(CD)スペクトルを測定した。コラーゲンモデルペプチドとして(Pro-Pro-Gly)10と(Pro-Hyp-Gly)10を用いた。
3.結果と考察(Results and Discussion)
(Pro-Pro-Gly)10水溶液のCDスペクトルは,5℃では三重らせんコラーゲンに特徴的な220 nm付近の正のピークがわずかに観察され,温度の上昇とともにこのピークは消失した。(Pro-Hyp-Gly)10水溶液では,温度によらず220 nm付近の大きな正のピークが観察された。このことから,(Pro-Pro-Gly)10は,水中で部分的にらせん構造を形成しており,(Pro-Hyp-Gly)10は,水中で安定にらせん構造を形成していると考えられた。
(Pro-Pro-Gly)10にスクロースを添加すると,220 nm付近の正のピーク強度が増加した。一方,スクラロースを添加した場合には,220 nm付近のピーク強度はそれほど変化がなかった。このことから,スクロースの添加は(Pro-Pro-Gly)10のらせん構造の安定化に寄与することが示された。また,スクラロースの添加の影響は,今回の実験条件ではあまり明確ではなかった。
4.その他・特記事項(Others)
円二色性装置利用においてご協力いただきました,利光史行特任助教(九州大学大学院工学研究院)に感謝いたします。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし