利用報告書
課題番号 :S-20-KU-0023
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :癌免役治療のための死にゆく細胞を選択的に分離するバイオ界面の開発
Program Title (English) :Design of bio-interface exerting spontaneous-isolation of initial apoptotic cells for cancer immunotherapy
利用者名(日本語) :西田 慶
Username (English) :Kei Nishida
所属名(日本語) :九州大学 先導物質化学研究所
Affiliation (English) :Kyushu University IMCE.
1.概要(Summary )
培養材料や細胞外マトリックスに細胞が接着・伸展する際には、基材の粗さや親疎水性、極性、弾性率といった物理化学的パラメータが影響することは良く知られている。しかしながら、培養環境は水中であることは自明であるにも関わらず、材料表面に対する水和水が細胞接着のパラメータになり得るかは報告例がほとんどない。そこで我々は、材料表面の水和水量と細胞の接着力や接着形態、細胞-材料間相互作用の検討を行った。
2.実験(Experimental)
材料の水和水量を系統的に調整するために、抗血栓性の被覆材料として汎用されている疎水性高分子であるpoly(2-methoxyethyl acrylate) (PMEA)およびその類似体の精密合成を行った。細胞内タンパク質量の変動を評価するために、超遠心分離機 (himac CS100GXL)により細胞を分画した。また、微粒子の粒子径およびゼータ電位を測定するために、ゼータ電位/粒径測定システム (大塚電子株式会社製, ELSZ-2)を使用した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
所属研究室では材料表面の水和水を相互作用の強さの順に不凍水 > 中間水 > 自由水と分類し、PMEA類似体は水和水量を系統的に変化させることが可能である。そこで、水和水量が異なる種々のPMEA類似体を合成し高分子塗布基板を作製した。本研究では材料の水和水量をパラメータとするために、吸着タンパク質が関与しない無血清系において実験をデザインした。細胞の接着力をAFMによる単一細胞フォーススペクトロスコピーおよび側方遠心力法から評価した結果、水和水量に比例して細胞の接着力および細胞の伸展度合いが減少した。このような水和水量による細胞接着力の差は、細胞骨格系や細胞移動、代謝系に関わるタンパク質の発現が変調することを見出している。この点において、超遠心分離機を使用することで細胞内のタンパク質を細胞質および核分画し、細胞接着力によって細胞内アクチン分布が大きく異なることも示唆された。本研究により、材料の水和水量が細胞の接着挙動に影響を与えるパラメータの一つであることを実験的に示された。
また、PMEA類似体などの非水溶性のアクリレート系高分子が水中において、安定に分散するコアセルベート液滴を形成することを見出した。DLS測定の結果、本コアセルベート液滴の粒子径は、単峰性のナノ-マイクロオーダーを示した。非常に興味深いことに、種々のPMEA類似体からなる液滴は水和水量や弾性率によって、特定の癌細胞に対する選択的な集積性が認められた。このような癌細胞集積性は、液滴の低い弾性率や高い流動性、細胞膜成分の違いが寄与していると考えられる。
4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
Kei Nishida, Takahisa Anada, Shingo Kobayashi, Tomoya Ueda, and Masaru Tanaka, Effect of bound water content on cell adhesion strength of water-insoluble polymers, under review.
6.関連特許(Patent)
西田慶、上原広貴、田中賢、PCT/JP2020/42474中間水を含有可能な非水溶性ポリマーの水和方法, 2020/11/13