利用報告書
課題番号 :S-20-KU-0030
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :高分子側鎖導入間隔の制御と水和状態に着目したがん細胞接着選択性のメカニズム解明
Program Title (English) :Mechanism of cancer cell-selective adhesion on polymers: Effect of side-chain spacing and hydration states of poly(2-methoxyethyl acrylate) derivatives
利用者名(日本語) :園田 敏貴1)
Username (English) :T. Sonoda1)
所属名(日本語) :1) 九州大学大学院工学府
Affiliation (English) :1) Graduate school of Engineering、Kyushu University
1.概要(Summary )
新規合成した高分子材料をコーティングした基板について、表面ゼータ電位を評価するために、ナノテクプラットフォーム所有のゼータ電位/粒径測定システムを利用して測定を行った。ここで得られた知見をもとに、がん細胞と高分子間に働く相互作用における表面電位の寄与と水和状態の寄与を明らかにし、がん細胞接着選択性の制御を達成する高分子の一次構造の設計指針確立への道筋をつけた。
2.実験(Experimental)
新規高分子をトルエンに溶解して10 mg/mL溶液を調製し、これを用いて3000 rpmの条件でスピンコート法によってポリエチレンテレフタレート(PET)基板上に高分子薄膜を作製した。この基板を24時間30 Cで真空乾燥(80 mTorr)し、測定試料とした。ゼータ電位/粒径測定システム(ELSZ-2、大塚電子株式会社)を用い、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中における平板基板表面のゼータ電位を測定した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
対照試料として負のゼータ電位を示す未処理のPET基板や疎水性高分子、正のゼータ電位を示すカチオン性高分子について測定した結果、既報の通りのゼータ電位が観測され、正確に測定されていることを確認した。新規高分子は側鎖官能基として三級アミノ基を有するため、PBS中では表面が正に帯電すると予想された。しかし、測定結果はほとんど帯電しておらず、小さく正に帯電した表面であることが確認された。
また、導入した三級アミノ基の種類によって異なるゼータ電位が観測され、三級アミノ基の塩基性度と一貫した結果が得られた。
これらの結果は、申請者が本研究課題で新規に設計した高分子に期待した性質と一致していた。高分子側鎖導入間隔の制御によって高分子疎水性を増大させることで三級アミノ基のpKaを低下させた結果、プロトン化される割合が低減し、三級アミノ基を強力な水素結合受容性官能基として機能させることに成功したと推察される。示差走査熱量測定による水和状態の結果も、これと一貫しており、申請者の仮説を裏付ける結果が得られた。
さらに本実験で得られた結果は、並行して行った新規高分子と細胞との相互作用の解析結果を支持するものであり、本研究課題の達成に大きく貢献する解析結果となった。
4.その他・特記事項(Others)
なし。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) T. Sonoda, S. Kobayashi, M. Tanaka, Macromolecules (2021), in press.
DOI: 10.1021/acs.macromol.0c02611.
6.関連特許(Patent)
なし。