名古屋工業大学
2012年度 成果事例
【研究目的】
ある種の有機化合物や炭素材料にカリウム等のアルカリ金属をドープすることにより,超伝導や強磁性が発現することが報告されている。グラファイト層間化合物の超伝導は古くから知られているが,最近ではアルカリ金属をドープしたフラーレンやピセンにおいても超伝導が報告され注目を集めている。また,室温強磁性については,金属フタロシアニン錯体へのカリウムドープの報告がある。しかし多くの場合,実験の再現性に問題があり,強磁性の起源となるスピン整列のメカニズム解明も将来的な問題として残されてきた。本研究では,カリウムをドーピングしたポリアセチレンラジカルポリマーのSQUIDおよびESRによる磁気測定とICPおよびTEM・EDXによる微量不純物分析の両結果から,この系で観測された強磁性の起源を考察するとともに,炭素系有機材料において過去に観測された室温強磁性の発現メカニズムを提案する。
【成 果】
ポリマー粉末はカリウムドープにより,暗赤色から黒色に変化した。図1にカリウムドーピング後に300Kで測定したM-H曲線の代表例を示す。これらの結果から,カリウムドープした試料粉末は強磁性であることがわかる。また,零磁場冷却曲線(ZFC)と磁場中冷却曲線(FC)は2Kから室温までの温度領域で明らかな差異が認められた。また,ZFC曲線の4K付近にカスプがあり,何らかの磁気相転移の存在が示唆された。
観測した強磁性が,有機ラジカルスピンの整列によるものか不純物によるかを明らかにするために,1)不純物鉄濃度と強磁性の相関,2)電子スピン共鳴(ESR)スペクトルの解析,3)TEM・EDXによる不純物分析を行った。その結果,1)不純物濃度を強磁性飽和磁化の間には正の相関,2)カリウムドープに伴い,大きな温度依存性を示す幅広な新たなESRシグナルの出現,3)数- 数10 nm サイズで凝集した鉄微粒子の存在,を確認した。 以上の実験結果は,カリウムドープ前の試料には希薄分散あるいは数- 数10 nmのサイズで凝集する常磁性鉄イオンが存在しており,金属カリウムのドープにより鉄イオンが還元されて金属鉄微粒子が生成し,そのサイズに応じて強磁性あるいは超常磁性が発現したことを示唆している。