利用報告書

分子インプリント高分子膜の不均一構造の解析
小暮 勇斗, 吉見 靖男
芝浦工業大学工学部応用化学科

課題番号 :S-17-NM-0073
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :分子インプリント高分子膜の不均一構造の解析
Program Title (English) :Analysis of inhomogenous structure of molecularly imprinted membranre

利用者名(日本語) :小暮 勇斗, 吉見 靖男
Username (English) :Y. Kogure, Y. Yoshimi
所属名(日本語) :芝浦工業大学工学部応用化学科
Affiliation (English) :Dept. Applied Chemistry, Shibaura Institute of Technology

1.概要(Summary )
分子インプリント高分子(Molecularly Imprinted Polymer: MIP)は合成の過程で、鋳型としていた物質に対する親和性を付与された高分子である。利用者らは、MIPの特異結合に伴う構造変化を観察するために、MIPの自己支持膜を開発した。本研究では蛍光プローブを含浸させて、その分布を共焦点レーザー顕微鏡で観察する方法の構築を試みた。

2.実験(Experimental)
石英板の間でD-フェニルアラニン(D-Phe)を鋳型として、機能性モノマー(メタクリル酸+2ビニルピリジンを当モル数)、架橋性モノマー(トリエチレングリコールジメタクリレート+ポリエチレングリコールアクリレート(PEA))を共重合し、厚み50 µmの自己支持膜を作製した。この透析膜で二室回分透析を行い、クレアチニンの総括物質移動係数に鋳型またはそのエナンチオマー(L-Phe)が与える影響を調べた。またこの膜に様々な分子量の蛍光物質を含浸させ、共焦点レーザー顕微鏡(SP5, LICA, Wetzlar)で観察し、鋳型による蛍光分布変化から構造変化を観察した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
自己支持膜の総括物質移動速度に与える0.5 mMの鋳型またはそのエナンチオマーの影響を検討した。全架橋剤の中のPEAが占めるモル分率が10%以下の膜のみ、鋳型に対して特異的な透過速度増加を示した。
次に、フルオレセイン(分子量 332)を含む水溶液に各膜を浸したあとで、共焦点レーザー顕微鏡で観察したところ、全体に強い蛍光が見られた。またフルオレセインで標識したデキストラン(分子量10,000)の溶液に膜を浸して観察した結果、膜表面のみ強い蛍光が見られた。これらの結果は、MIP自己支持膜の両表面に散漫層があり、深部に分子量10,000の溶質が浸入できない緻密層が存在することを示唆している。鋳型を加えると、表面の散漫層の厚みが増大したが、鋳型のエナンチオマーによる変化は見られなかった。鋳型と表面において散漫層が膨潤したと考えられる。しかし膜透過における直列抵抗モデルを考慮すると、元々透過抵抗の小さい散漫層の空隙が大きくなっても、膜全体の透過速度を高める効果があるとは考えにくい。緻密層においても同様の空隙率増加があったと考えるのが自然である。ただしフルオレセインでは、分子量が小さいため膜内にほぼ均等に分配し、分子量10,000程度の蛍光プローブでは、特異相互作用で空隙を拡張された緻密層に浸入することができないと考えられる。そこで、分子量が約2,000のフルオレセイン標識ポリエチレングリコールを合成し、この水溶液に膜を浸したものを共焦点レーザー顕微鏡で観察した。その結果、分子量10,000のプローブを用いた場合と同様に、どの膜においても表面にのみ強い蛍光が確認された。この浸漬液にMIP膜の鋳型を加えると、全架橋剤の中のPEAが占めるモル分率が10%以下の膜のみ、緻密層にも蛍光が確認された。一方、鋳型のエナンチオマーを添加しても、緻密層に傾向は見られなかった。これは鋳型との特異相互作用による緻密層内における空隙の拡張を示しており、移動速度の測定結果と整合する。
この結果から、適切な蛍光プローブを含浸させて共焦点レーザー顕微鏡で観察することにより、特異結合に伴うMIPの細孔構造変化を可視化できることが示唆された。

4.その他・特記事項(Others)
NIMS李香蘭氏、森田浩美氏に装置取り扱い説明などの支援を受けた。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
吉見靖男, 小暮勇斗, 成田陽: 「共焦点レーザー顕微鏡による分子インプリント高分子膜のゲート効果の可視化」, 日本膜学会40年会, 東京, 2018年5月(予定)

6.関連特許(Patent)
なし

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