利用報告書

多周波EPR法を用いた光合成反応過程の解析
三野広幸),
名古屋大学理学研究科

課題番号 : S-19-MS-1020
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :多周波EPR法を用いた光合成反応過程の解析
Program Title (English) :Analysis of photosynthetic reaction process investigated by multi-frequency EPR
利用者名(日本語) :三野広幸),
Username (English) :H. Mino
所属名(日本語) :名古屋大学理学研究科
Affiliation (English) :Grad. School of Science, Nagoya University

1.概要(Summary )
光合成反応は光エネルギーを化学エネルギーに変換する多くの反応からなる過程である。光合成反応の主要課題としては反応中心タンパク質中の電子移動経路と電子移動機構の謎、高等植物の酸素発生機構の謎、光センサー応答などがあげられる。なかでも光合成の酸素発生機構は光合成研究における最大の謎とされ、長年多くの研究が行われてきた。2011年岡山大学の沈のグループにより酸素発生を行う光化学系Ⅱタンパク質複合体のX線結晶構造解析が1.9Åの分解能でなされた(Umena et al., Nature, 2011)。反応機構はまだわかっていない。 酸素発生機構というのは4光子、5つの中間状態(S0 からS4)の絡む反応であり、プロトンの放出や構造変化を伴いながら反応が進行する。特に酸素発生時のクラスターの構造変化(S3⇒S0)は最重要である。自由電子レーザーを用いた研究では米国のグループと (Kern et al.,nature, 2018), 沈らのグループはX線自由電子レーザーを用いて高酸化状態の構造を発表し(Suga et al., 2019, Science)論争中である。X線結晶構造解析は強力な手法であるが、プロトンの情報がなく、また化学反応の議論に必須な分子軌道の情報は直接得られない。そのため、化学反応の解析にはさまざまな実験と量子化学計算などが組み合わされている。本研究は酸素発生系について磁気構造及び相補的な情報を得ることを目的としている。特に高周波ESRではX線結晶解析と同じ試料を同じ条件のEPRでとらえることができるため議論をすすめることができる。

2.実験(Experimental)
1. 光化学系Ⅱは膜タンパク質であり二次元的に配向することによってESR信号の異方性を観測することができる。酸素発生系のS2中間状態の高スピン状態をESRでとらえて結晶構造との比較を行った。

2.酸素発生系S3状態は整数スピンであり、X-bandでは低磁場でのみ観測可能であるが、高周波であるW-band EPRを用いることにより得られるEPR信号から詳細な構造情報が得られる。W-bandでの測定を行っている。

3.酸素発生系の基本骨格は3つのマンガンと酸素とカルシウム原子からなるcubaineの部分と1とのマンガンと1つの酸素からなる部分にわかれる。生化学処理による構造変化、および再構成過程での中間状態を多周波EPR法で解析している。

本稿では実験1について報告する。

3.結果と考察(Results and Discussion)
2019年に発表されたX線自由電子レーザーによる解析では(Suga et al., 2019,Science)S2,S3中間状態の構造が発表されている。そこでは量子化学計算の導入の下中間状態ではマンガン原子(Mn1とMn4)間に酸素原子が挿入されるモデルが提唱されている。一方、EPR法を用いた実験ではS2状態には2つの構造異性体があることが知られている。この異性体構造はX線解析ではとらえられていない。これまでのモデルでは、この構造異性体はMn1-Mn4間の酸素原子の位置の違いによるものと信じられている(図1)。この異性体構造はPantazis(独)と山口(日本)らによって独立に提案されている。またドイツのグループはESRのsimulationも行っており、すでに説明できたものとして理解されてきた。

今回、ESRを用いた解析により高スピン状態の磁気的異方性がMn4と呼ばれるマンガン原子由来であることを明らかにした(図2)。これにより実験的に初めて高スピン状態でのMnの価数を決めることに成功した。

ここでの結果は量子化学計算で提案されていた高スピン状態の構造モデルと4つのマンガン原子それぞれの価数についての結果とは矛盾しない反面、従来議論されてきたような大規模は構造変化を伴わないものであることもわかった。

4.その他・特記事項(Others)
なし

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) H.Mino, H. and H. Nagashima, J. Phys.Chem. B (2020) 124,p.p. 128-133
(2) 三野 広幸,パルスESR法を用いたタンパク質間相互作用及び反応中心の解明, 第57回電子スピンサイエンス学会年会, 2019年11月7-9日
(3) 三野 広幸, 長嶋宏樹, 光合成酸素発生系高スピンS2状態の起源, 第57回電子スピンサイエンス学会年会, 2019年11月7-9日
(4) 田口 翔大, Shen Liangliang, Han Guangye, 沈 建仁, 野口 巧, 三野 広幸, 光化学系Ⅱの表在性タンパク質による水分解Mn4CaO5クラスターのS2構造異性体平衡の制御機構, 第57回生物物理学会年会, 2019年9月24-26日
(5) 三野広幸, 佃野弘幸, 小関康平, 久冨修, 機能性タンパク質Photozipperの構造と反応, 第46回生体分子科学討論会, 2019年6月21-22日
(6) H. Mino, Role of Ca ion in Oxygen Evolving Complex in Photosystem II investigated by CW and pulsed EPR, The 6th Awaji International workshop on Electron Spin Science and Technology, Japan, June 16-19, 2019

6.関連特許(Patent)
なし

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