利用報告書

有機ディラック電子系における量子エンタングルメント開拓
田嶋尚也
東邦大学理学部

課題番号 :S-19-MS-0004
利用形態 :
利用課題名(日本語) :有機ディラック電子系における量子エンタングルメント開拓
Program Title (English) :Entanglement in organic Dirac electron systems
利用者名(日本語) :田嶋尚也
Username (English) :Naoya Tajima
所属名(日本語) :東邦大学理学部
Affiliation (English) :Toho Univ.

1.概要(Summary )
量子エンタングルメントは、量子コンピューターの発展において大変重要な役割を担っている。現在、量子エンタングルメントの生成・検出技術は量子光学研究が主であるが、固体中で生成・検出することが今後期待される。例えば、スピン液体、量子ホール状態、VBS(Valance Bond Solid)状態などの量子液体相で生じることが理論的に指摘されている。しかし、上記の量子液体状態で量子エンタングルメントを生成・検出した報告例は今のところ無い。
本研究では、高磁場下で固体中の電子のエネルギーがとりうるランダウ準位に着目する。申請者は、ゼーマン分裂およびバレー分裂したランダウ準位それぞれが準位交差を起こすときに、量子エンタングルメントが生成されると考える。最近、森成(京都大学)により、ゼーマン分裂とバレー分裂したランダウ準位がランダウ準位全体に渡って最大にエンタングルすることが理論的にも実証された。
そこで本研究では、有機ディラック電子系-(BEDT-TTF)2I3を舞台に量子エンタングルメントを生成し、量子(熱)輸送測定から検出することを目的とした。しかし、この物質のフェルミ準位は常にディラック点(伝導帯と価電子帯の接点)に位置するため、N=0以外のランダウ準位および準位交差を観測するには、キャリアを注入してフェルミ準位をディラック点から移動させる必要がある。本研究では、貴施設の優れた試料・デバイス作製環境を使用して、α-(BEDTT-TTF)2I3をチャネルとしたデバイスを作製した。量子エンタングルメントを生成・検出するために、今年度はランダウ準位交差がある磁場角度で起きることを確認した。
2.実験(Experimental)
電気分解法により厚さ100~200 nm程度の分子性導体: α-(BEDTT-TTF)2I3の薄片単結晶を合成した。得られた単結晶を正または負に帯電した基板に張り付けることで、α-(BEDTT-TTF)2I3へキャリアを注入した。低温・磁場下測定は東邦大学で行い、デバイス構造や基板電極の選択などに関して、測定結果を基に最適化を行った。
以下が具体的な研究計画である。
デバイス作製: 100 nm程の厚みの試料をプラスチック基板に固定して、電界効果トランジスタを作製する。
測定:低温・磁場下においてゼーマン分裂とバレー分裂したランダウ準位の準位交差を量子輸送現象から検出した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
本研究では、最初のステップとして、高圧力下にある本デバイスがディラック電子系であることを2次元面垂直磁場下で測定した量子磁気抵抗振動の位相解析から確認した。
 ランダウ準位の準位交差を検出することを目的に、明瞭な量子磁気抵抗振動が観測されるデバイスの量子磁気抵抗振動を2次元面垂直から磁場方位を傾けて調べた。
 図1にそれぞれの角度で測定した量子磁気抵抗振動(R_xxの2階微分)をB_⊥^(-1)に対してプロットする。カラープロットで表すことでゼーマン分裂したランダウ準位の準位交差が明瞭になる(図2)。準位交差はθ~60度で起きることが推察される。
ランダウ準位準位交差の過程はフーリエ解析による振動強度の周波数B_(f⊥)依存性からよく理解できる。図3にθ=0度のフーリエ解析による振動強度のB_(f⊥)依存性とそのθとB_(f⊥)に対するカラープロットを示す。B_(f⊥)~10 Tのピークはこの系のランダウ準位構造によるもので、B_(f⊥)~20 Tのピークはランダウ準位のゼーマン分裂による。カラープロットを見ると、θ~40度でB_(f⊥)~10 Tの強度が他の角度に比べて極端に弱くなるのに対して、B_(f⊥)~20 Tの強度はほぼ一定であることに気付く。θ~40度でゼーマン分裂によるランダウ準位間の重なりが小さくなり、B_(f⊥)~20 Tの振動のみとなる。

図1: 0.5 Kで測定した幾つかの磁場角度に対する量子磁気抵抗振動。

図2: 図1のカラープロット。

図3: フーリエ解析結果のカラープロット。

4.その他・特記事項(Others)
「なし。」

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 鵜野澤佳成, 川椙義高, 須田理行, 山本浩史, 加藤礼三, 木俣基, 西尾豊, 梶田晃示, 田嶋尚也
“有機ディラック電子系の高磁場下輸送現象”
2019年秋季次大会(岐阜大学) : 2019年9月10日
(2) 川椙義高, 上辺将士, 増田光, 田嶋尚也, 山本浩史, 加藤礼三, 西尾豊, 梶田晃示
“α-BETS2I3の基板上薄片結晶における量子振動の観測”
第75回年次大会(名古屋大学): 2020年3月16日
(3) 鵜野澤佳成, 川椙義高, 須田理行, 山本浩史, 加藤礼三,西尾豊, 梶田晃示, 田嶋尚也
“有機ディラック電子系における量子輸送現象の圧力効果”第75回年次大会(名古屋大学): 2020年3月16日
(4) 田嶋尚也
“有機ディラック電子系の量子輸送現象”
京都大学人間環境学研究科セミナー:2019年10月23日

6.関連特許(Patent)
「なし。」

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