利用報告書

生体物質のESR測定を用いた緊急被ばく時線量評価手法の開発
廣田誠子1), Chryzel Gonzales 2)
1)広島大学原爆放射線医科学研究所, 2) 広島大学医歯薬保健学研究科

課題番号 :S-18-MS-1098
利用形態 :ナノプラット機器利用
利用課題名(日本語) :生体物質のESR測定を用いた緊急被ばく時線量評価手法の開発
Program Title (English) :The development of dosimetry for emergency by using electron spin resonance
of human nail
利用者名(日本語) :廣田誠子1), Chryzel Gonzales 2)
Username (English) :S.Hirota 1), C.Gonzales2)
所属名(日本語) :1)広島大学原爆放射線医科学研究所, 2) 広島大学医歯薬保健学研究科
Affiliation (English) :1) RIRBM, Hiroshima University, 2) Hiroshima University.

1.概要(Summary )
昨今の医療や工業分野などにおける放射線利用に伴い、線量計を携行しない時に起きる被ばく事故に対する対応策が求められる。当研究では、爪など生体試料を電子スピン共鳴(ESR)によって測定し、被ばく時に発生したラジカル量から遡及的に線量を推定する方法の確立を目指す。
これまでの研究から、照射直後の爪では線量に比例するESR信号が得られることがわかっているが、信号の時間安定性や、試料取り扱いによる信号の影響において、放射線の種類や個人による違いなど、詳細は未だ不明である。
これらの問題点により、現時点での線量推定精度は数Gy程度であり、実用に向けて精度向上が望まれる
2.実験(Experimental)
液体ヘリウムを用いた低温状況下(5K, 30K, 50K)でのESR(X-band)測定を行い、感度向上とそれに伴う測定精度向上の可能性を調べた。使用した試料は60代女性一名より6試料、40代男性一名より6試料であり、0から25Gyまでの間の6点を選び、X線を照射した。それぞれの爪提供者において6試料の信号強度と照射線量から個人の線量応答性を算出し、検出線量分解能を求めた。
また50Kにおいて25Gy照射の試料を用いて10時間程度の長期測定を行い信号の時間安定性を調べた。
 また、SQUIDを用いて、X線23.5Gyを照射した40代日本人男性の爪において何個のスピンが存在するかその絶対量を測定した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
 低温状況下における測定の結果、5K、30Kではマイクロ波の増強に応じた信号強度の飽和が見られ、感度向上が見込めないことがわかった。一方、50Kの温度においては、マイクロ波の増加に応じた信号強度の増加が見られたため、この温度を測定温度とした。極低温下において感度向上が見込めないことは、爪試料の中に存在するスピンは非常に希薄に孤立して存在していることを意味する。SQUIDによる測定の結果は試料1mgあたりに対し、1×1015個であり、同様の描像を支持するものである。
50Kの温度における測定では、60代女性において検出線量分解能は1.62Gy, 40代男性においては10.1Gyであった。同様の測定を300Kで行なった場合には線量応答性の確認は不可能であった。これより、低温状況下では検出感度が高くなる可能性があると考えられる。
 10時間の長期測定において、信号は非常に安定しており、常温下での測定のような緩やかな上昇(25Gy時2%程度の上昇)は認められなかった。この結果より、爪の内部では照射後しばらくの間、何かしらの化学反応が進行しているものと思われる。
なお、常温下において分解能数Gyを到達するためには、今回のような複数試料による測定法ではなく、同一試料にX線照射と測定を繰り返し行うことで検量線を取得し、線量応答性を調べることが必要である。これは同一提供者の爪であっても、試料ごとに線量応答性の違いがあるためと考えられている。今後、この同一試料での測定において低温状況下でどの程度の検出精度向上が見込めるかを明らかにしたい。
4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし

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