利用報告書

1,2,3-トリアゾール含有シッフ塩基配位子を用いた金属錯体の結晶構造と磁気的性質の解明
萩原宏明1), 中田敬士2)
1) 岐阜大学教育学部, 2) 岐阜大学大学院教育学研究科

課題番号 :S-19-MS-1008
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語)  :1,2,3-トリアゾール含有シッフ塩基配位子を用いた金属錯体の結晶構造と磁気的性質の解明
Program Title (English) :Crystal Structures and Magnetic Properties of Metal Complexes Having 1,2,3-Triazole-containing Schiff-Base Ligands
利用者名(日本語) :萩原宏明1), 中田敬士2)
Username (English) :H. Hagiwara1), K. Nakata2)
所属名(日本語) :1) 岐阜大学教育学部, 2) 岐阜大学大学院教育学研究科
Affiliation (English) :1) Faculty of Education, Gifu University, 2) Graduate School of Education, Gifu University

1.概要(Summary )
 当研究室で新規合成に取り組んでいるスピンクロスオーバー(SCO)錯体は、分子メモリ素子、分子スイッチング素子への応用が期待され、実用材料に向けた室温近傍での光によるスピン転移が求められている。最近合成した直鎖状六座配位子鉄(II)錯体[FeL3-2-3Ph]- (AsF6)2·0.75MeCN·0.25H2O (1)は、502 K付近での低スピン(LS)から高スピン(HS)への完全なSCOの後、室温近傍(T1/2 = 315 K)にて可逆的SCOを示し、その後の10 K下での635 nmのレーザー光照射によりLSから準安定HS状態への光誘起スピン転移(LIESST)を示した。また、LIESSTからの熱緩和温度は86 Kであり、室温付近で熱的SCOを示す錯体としては高い緩和温度を示した。そこで今回、錯体1の誘導体[FeL3-2-3p-tolyl]X2 ·Solventを合成し(表1)、それらのSCO特性を調べた。

表1. 新規錯体の対アニオンと結晶溶媒
錯体 対アニオン (X) 結晶溶媒 (Solvent)
2 AsF6 0.5MeOH·0.5H2O
3 AsF6 0.75MeCN·0.25EtOH
4 PF6 0.5MeOH·0.5H2O
5 PF6 0.5MeCN·0.5EtOH

2.実験(Experimental)
 SQUID型磁化測定装置(Quantum Design MPMS-XL7 or MPMS-7+オーブン):アルミホイルに包んだ粉末サンプル(約5 mg)を石英管に入れ、上下を石英ウールで固定したものを測定試料とし、昇・降温過程の磁化率を測定した。また、光照射実験には直径4 mmのセロハンテープに挟んだ粉末試料(約1 mg)を用いた。これを光照射用石英ホルダーに挟みロッドに取り付け、まず300から10 Kの降温過程の磁化率を測定し、通常の温度依存測定の結果と比較することで試料量を見積もった。続いて、10 K下で装置内の試料に光ファイバーを通じてレーザー光を照射した(波長532, 635 nm)。最後に、磁化が飽和した段階で光照射をやめ、300 Kまでの昇温過程の測定を行い、熱緩和温度を調べた。

3.結果と考察(Results and Discussion)
 錯体2–5は全て300 K以下でLS状態にあり、昇温に伴い結晶溶媒の脱離に連動したLS→HSの一段階SCOを示した。T1/2はそれぞれ416 (2), 404 (3), 366 (4), 400 K (5)であり、対アニオン及び結晶溶媒の種類により異なった。また、脱溶媒後の降温過程では全ての錯体でT1/2が低下し、それぞれ336 (2), 336 (3), 313 (4), 312 K (5)となった。このことから、脱溶媒後のT1/2は対アニオンの違いのみの影響を受けることが明らかになった。なお、上記測定後の錯体2について、635 nmのレーザー光照射を行ったところLIESSTが確認できた。しかしながら、錯体1の2倍の1350分の光照射によっても約20%しかHS状態へ転移せず、変換効率は低いことが明らかとなった。なお、長時間の光照射が必要であり、低温下でのノイズデータの発生も多く、錯体3–5の検討には至っていないため、今後もこれらの錯体について光照射測定を続けていく予定である。

4.その他・特記事項(Others) 本研究は科学研究費補助金・若手研究 (No.18K14240)の助成を受けて行った。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) T. Matsuyama, Keishi Nakata, H. Hagiwara, T. Udagawa, Crystals, Vol. 9(2019)p.p.276 (1-16).
(2) Y. kamo, I. Nagaya, R. Sugino, H. Hagiwara, Chemistry Letters, Vol. 48(2019)p.p. 1077-1080.
(3) 松山冬萌, 萩原宏明, 中田敬士, 宇田川太郎, 錯体化学会第69回討論会(2019), 3PA-032, 令和元年9月23日. (ほか1件)
6.関連特許(Patent) なし。

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