安倍:早稲田大学では総合機械工学科に所属しています。ですので、化学の分野であるカーボンナノチューブの研究は畑違いと言えます。この研究に取り組んだ理由は、ナノテクノロジープラットフォームが主催する学生研修プログラムに参加したのがきっかけです。このプログラムは、若手研究者を含む幅広い利用者による設備の利用を促進し、研究現場などの技術的課題に取り組むために開かれています。私は2019年8月、3つのプラットフォーム(微細構造解析プラットフォーム、微細加工プラットフォーム、分子・物質合成プラットホーム)の中から分子・物質合成プラットホームの九州大学のプログラムに参加しました。
安倍:九州大学では、絡まり合っているカーボンナノチューブの分子を分散させる手法を確立しています。学生研修プログラムでは、その研究を追体験するものだったのですが、私は思うような結果が得られませんでした。その代わり、研究室の気温や湿度などの条件が重なって、思いも寄らぬ配列パターンが出現しました。これ以上は研究中なので詳しくは言えませんが、カーボンナノチューブの研究を前進させるカギになるかもしれないパターン配列を見つけたと考えています。
安倍:そうです。成功した配列パターンを再現したいと思いました。そこで、ナノテクノロジープラットフォームに設けられている「試行的利用制度」を利用しました。この制度には、ユーザーの利用料が免除される「利用料免除」とユーザーの旅費の支給と利用料が免除される「地方支援」があります。私は「地方支援」を使いました。この制度で2度、九州大学を訪れ、特任助教の利光史行先生に指導を仰ぎながら、実験を行いました。ただ、再現には至っていません。設備機器としてはAFM(原子力間顕微鏡)とレーザーラマン顕微鏡を使いました。
安倍:九州大学には3回訪れました。利光先生からは、実験の仕方やカーボンナノチューブの理論の指導を受けました。また、技術職員の方もいらっしゃいますので、設備機器の扱い方なども学びました。最も心に残ったのは、実験は一つ一つ丁寧に行うということです。少しのことで結果に違いが出ることを肝に銘じました。この研究は九州大学との共同研究に採択されています。
安倍:一言で言えば計測法ですね。極小のスケールで分子がどのように振る舞うのかといったナノスケールでの計測法を研究しています。分子を観るためには計測という手段は必要です。一方、私自身が計測する立場になると、正確に観察できることの大切さが分かります。新しい素材を生み出すには、計測して証明しなければならないからです。これまで自分が学んできたことの意義を改めて感じさせられます。
松田:学生研修プログラムに参加して、主体的に研究課題を見つけ、チャンスをものにしようという姿勢は評価できます。安倍君が九州大学に出張した際には、私も同行して利光氏と親交を深めることができ、新たなつながりが生まれました。
松田:機械と聞くと自動車やロボットをイメージするかもしれません。しかし、現代の機械工学は、研究領域がとても広いのです。最終製品が飛行機だったとしても、完成するまでには化学や応用物理の技術が融合していきます。つまり、学んでいることは機械工学であっても、化学など別の分野にも関わりがあるということです。別々のルートからトンネルを掘っていったら実は同じ目的地を目指していたということなのかもしれませんね。安倍君には機械工学だけにとどまらず、学問分野を横断した研究を進めてほしいとアドバイスしています。
安倍:細かいところまで心血を注ぐことです。そして、全体を見ながら細部にも目を凝らすバランス感覚が大切であることを学びました。
松田:安倍君は、何も言わなくても自分で育っているようです。言われたことしかできなかったら成長できません。自分でチャンスを見つけていくのは、社会で生きていく上で大事だと思います。
安倍:松田先生はどんどん研究室の外に出て行けという方なので。突っ走って危なくなったら松田先生がとめてくれます。
松田:いろいろ経験したことは、10年後、20年後に生きてきます。挑戦する気持ちがなければ、失敗することも成功することもありません。チャレンジャーであるべきなのです。
―ナノテクノロジープラットフォームについて、どう評価されますか。
松田:学生研修プログラムと試行的利用制度は、若い研究者をサポートする上で有効だと思います。また設備機器の利用では、AFMのような装置は、普通の研究室で持つのは難しいです。昔なら知り合いを頼っていましたが、高性能の装置を誰でも気軽に使用できるのは助かります。
―これから実現したいことを教えてください。
安倍:現在、カーボンナノチューブは、既存の生成方法ではわずかな面積しか生産することができません。今後、夢の新素材と言われてきたカーボンナノチューブの量産化に道筋をつけたいです。