利用報告書
課題番号 :S-18-MS-1054
利用形態 :機器センター施設利用
利用課題名(日本語) :フラビン-トリプトファン連結分子を用いた光誘起ラジカルペア・システムの構築
Program Title (English) :Observation of Photoinduced Radical Pair Reaction in Synthetic Flavin-
Tryptophan Molecule Connected by a Linker
利用者名(日本語) :岡 芳美
Username (English) :Y. Oka
所属名(日本語) :大分大学全学研究推進機構
Affiliation (English) :Research Promotion Institute, Oita University
1.概要(Summary)
生体内で、青色光受容体タンパク質クリプトクロムが高感度磁気センサーとして働いている可能性が強く示唆されている。その機構は、クリプトクロム中のフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)が青色光により励起されたとき、アミノ酸(トリプトファン、Trp)との間で電子移動が起こり、その結果生じるラジカルペアのために、微弱磁場であっても反応効率の差として検出できると推定されている。この磁気センシング機構に着目し、本課題では、「フラビン-Trp連結分子を用いた光誘起ラジカルペア・システムの構築」を目指した。クリプトクロムの磁気センシングにおいて、フラビンとTrpの相対位置が重要であり、その精密制御を目的として、本研究では、フラビン-Trp連結分子を対象に適切なリンカー構造を設計、合成するアプローチをとった。合成分子における光誘起ラジカルペア形成に対して、時間分解電子スピン共鳴(TR-ESR)による評価を検討した。
2.実験(Experimental)
①フラビン-Trp連結分子、②フラビン-Trp3連(Trp3)分子の設計、合成を行った。②の連結分子については、生成するラジカルペア間の距離を稼ぐことにより、最終的なラジカルペアが比較的安定であると期待した。実験の実施については、分子設計、有機合成、光吸収帯の確認等は、所属大学内で行った。①及び②のフラビン-Trp・ラジカルペア形成における反応機構の評価(スピン分極の観測)、最終的な3重項ラジカルペアの寿命評価を目的として、分子科学研究所、機器センターで以下の実験を行った。Nd:YAGレーザーとBruker E680(X-band)を用い、ナノ秒光パルス(励起波長355 nm、レーザーパワー 〜1.6 mJ)照射後のTR-ESR測定を行った。室温付近の測定には4×10 mmの偏平セル、凍結溶液については4 mm管を使用し、サンプル溶液を真空及びHe雰囲気下で凍結融解を繰り返した後、封管して測定に用いた。
3.結果と考察(Results and Discussion)
今回の測定では、予めTrpによるフラビンの蛍光消光が効率的に起こることを確認済みのフラビン-Trp3分子を用いた。まず、溶解性の点から、DMSO溶液を選択したが、検出限界を上回るラジカルペア由来のシグナルは観測できなかった。そこで、凍結状態における光透過性が高い2-MeTHF凍結溶液を用いたところ、100 K付近、マイクロ波パワー2 mW条件下で、光照射2 μs後に3400—3500 Gの磁場領域でA/Eスピン分極(低磁場側がA(吸収),高磁場側がE(放出)で、フラビンの3重項→3重項ラジカルペア生成を)示唆するようなシグナルを得た。また、その寿命は、約2 msと評価できた。一連の光化学反応の詳細について、検討を進めているところである。
4.その他・特記事項(Others)
<謝辞> 本研究は、科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究 )16K13980、住友財団 基礎科学研究助成、大分大学長戦略経費の助成を受けて実施した。実際のTR-ESR測定に当たっては、機器センターの藤原基靖氏、上田正氏にご協力いただいた。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Y. Oka, The 256th ACS National Meeting, 平成30年8月19日.
(2) Y. Oka, 日本化学会第99春季年会, 平成31年3月17日.
6.関連特許(Patent)
なし